あの日くだけた世界のかけらを集めても

 いつものきつい坂道を上がり始めたときに康輔のスマホが光った。

「お、なんか来た」

 康輔がじっと画面を見つめている。

 歩きスマホで転ぶなよ。

 せっかく今日から冬服なんだからね。

 なんて偉そうなこと言ってるけど、春にあたしがこの坂で滑った原因がまさに歩きスマホだったのだ。

「へえ、二年生に鷹宮愛海って女子がいるってよ。めっちゃ美人の先輩だってさ」

 声が一段高い。

「ふうん、良かったね」

「おまえも一緒に届けに行こうぜ」

「なんであたしも……」

「だってよ、二年の教室なんて、緊張するじゃん。センパイだらけだろ」

「それはそうだけど」

 べつに断る理由はないからあたしもそれ以上言うのはやめた。

 そう、理由なんかない。

 だからイヤなんだ。

 康輔のこういうところもイヤだ。

 鈍感すぎていつもそうなんだ。

 美人と聞いてテンション上がっちゃってさ。

 なんであたしが一緒に行かなくちゃならないのよ。

 美人を前にしてデレデレしてる康輔なんか見たくないのに。

 ぼんやりしていたらちょっと遅れてしまった。

 あたしの前を歩く康輔の背中に向かってあたしは素振りで一発パンチを入れてやった。

「何やってんだ?」

 いきなり振り向かないでよ。

 こういうところだけは勘がいいんだからさ、もう。

 康輔が思い出したように言う。

「二年生は明日から修学旅行でいないんだよな」

「京都と奈良だっけ」

 そうだったかな、と康輔が曖昧にうなずく。

「今日定期券を渡したら、お土産もらえるかもね」

「べつにそんなのいらねえよ。あの京都のお菓子、なんつったっけ。餅みたいなあんこのやつ」

「八つ橋でしょ」

「俺、あんまり好きじゃないんだよな、あれ。ばあちゃんちのタンスみたいな味だろ」

 何それ、ハッカでしょうよ。

 タンス食べたことあるのかよなんてツッコミを入れる気にもならない。

「二年生に紛れてコースケも一緒に行ってきちゃえば?」

「でもよ、寺とかつまんねえじゃん」

「奈良公園で馬に蹴られちゃえばいいんだよ」

 康輔があきれ顔でつぶやく。

「鹿だろ」

「だからでしょうよ」

「はあ? 意味わかんねえし」

 そうよ。

 あたしだって分からないよ。

 ……康輔の気持ちが。