放課後になり、皆がゾロゾロと帰っていく。
私はみっちゃんに「先行っといて」って言って、ゆっくりと帰り支度をしている慧さんの席に近づく。
鞄の中に今日もらった教科書を詰めている慧さんは、私が近づく気配を感じたのか顔を上げた。
私は少し緊張しながらも笑顔を意識して、
「久しぶりだね、慧さん。」
って声をかけた。
一瞬の間があって慧さんは
「…ごめん、あんた誰?」
と放った。
「えっ…あ、覚えてませんか?あの、こないだ駅のホームでお腹痛くなったところを慧さんが助けてくれて。…薬も買ってきてもらって…。」
まさかの慧さんが覚えてないという予想外の出来事に若干焦りながらも思い出してもらおうとする。
でも、
「あ…ごめん。覚えてない。」
「あ、そうですか…。」
彼は思い出してくれなかった。
「ごめん。」
「いえ、こちらこそっ…急にすいません。」
「いや…。」
「あ、あのっ…」
私のことを覚えてないにしてもこのまま「はい、さようなら」で終わるのは嫌だった。
窓から入り込む風が私と慧さんの髪を揺らす。
「私、山本遥香っていいます。…私と友達になってくれませんか?」
「ごめん、無理。」
そう言うと慧さんは教室を出て行った。