「じゃ、私行くわ!」

「うん、ばいばい。」

HRも終わり、バレー部に所属しているみっちゃんは私に声をかけると教室を飛び出していった。

みっちゃんと違って私は、特にやりたいこともなく帰宅部に所属することに。

結構強いうちの学校バレー部はほぼ毎日のようにあるのでみっちゃんと帰れるのはたまの休部のときだけ。

基本的に私はいつも1人で帰っていた。

私は帰る用意をすませ、自分の席から近い、後ろの出口から教室を出ようとした。

するとたまたま廊下からも人が教室に入ろうとしたらしく、ぶつかりかけた。

「うわっ、あ、ごめん!大丈夫?ぶつかってない?」

相手は隣のクラスの男子で、たしか名前は白石くん、だった気がする。

この学年でも結構人気のあるほうで、こないだも女子トイレで色恋沙汰の噂をされていた。

「あ、いえ、大丈夫ですっ。…こちらこそすいません。」

私もぼーっとしていたので謝ると、白石くんは私の顔をじーっと見て

「あれ?この子って…」

山本さん…だっけ、とポツリと独り言で呟く。

え?なんで私の名前…?

「あ、あの…。」

おずおずと声をかけると、白石くんはパッと1人の世界から抜け出したような顔をして

「あっ、あぁ…ごめんね。前にどっかで見たような気がして」

でも気のせいかな、って笑った。

「はぁ…。」

そして白石くんは私が外に出ようとしていたことに気づき、「あっ、通路塞いじゃってたね。はいどうぞ」と出入口をあけてくれた。

どうも…と口の中で聞こえるか聞こえないかぐらいの声の大きさで呟き白石くんの前を通った。

白石くんは私が通るとまた教室の入口の前に立って、

「慧!帰ろーぜ!」

と、よく通る声で教室の中にいた慧くんを呼んだ。


え、白石くんと慧くんって仲良かったっけ…?

それだけの話ではない。

白石くんと慧くんという組み合わせもそうだが、あまり人を寄せ付けない慧くんが、特定の誰かととても親しいことにびっくりした。


また慧くんの新たな一面が分かった、と少しワクワクしながら歩いていると、後ろから「山本さん!」と呼ばれた。

振り向くと日直でペアの男子が、

「悪い、俺ちょっと今日は早く帰んなきゃいけなくて。…代わりに山本さんが書いてくれない?」

日誌を私に差し出し、申し訳なさそうな顔をする。

別に今から家に帰っても特にすることもないし、と思って「うん、いいよ。」って返事をして差し出された日誌を受け取ると、

「悪い!ありがと!」

って言いながら男子は走って帰っていった。

教室に戻るため今歩いてきた道をUターンすると、当たり前ながら教室には誰もいない。

私は自分の机に座って日誌を広げた。

えーっと、今日の時間割は理科と…


あれ、数学の時間って何やったっけ…


たまに忘れかけてるところもありつつ書き進めていくと、


1番したの欄の、「学級の様子や気づいたこと」というところで手が止まってしまった。

んー、学級の様子…。

今日のみんなの様子を思い出してみても別にいつもと変わらない。

気づいたこと、は…

「慧くんと白石くんが仲良かったこと。…って私はバカか」

ふと頭にさっきの様子が思い浮かび口にしてしまった言葉に我ながら少し呆れてクスッと笑う。

「気づいたこと、…。」


意味もなく呟く。


「別に今のでいいじゃん。”俺と優人が仲良かったこと”で。」

「え?…慧くん!?」


バッと後ろを向くとやっぱりそこには慧くん。

なんでこの人はいきなり現れるような登場のしかたなんだろう。

心の中で1人で疑問を唱えている私をよそに、慧くんは意地悪そうにニヤニヤしながら私に顔を近づける。

「みんなが見る学級日誌に俺のこと書くとか大胆なことするね?山本さん?」

「あ、えと、これは…。」

「これは…?」

「じ、冗談、です。」

いつもより近いとこにいる慧くんにドギマギしながらもそう言うと、慧くんは「へー」って納得したのかしていないのか分からない感じで近づけていた顔を元に戻す。

やっといつもの距離感に戻って少し安心する反面、どこか残念に思う気持ちがあるような…。

そんな自分にも疑問を抱きつつ、私は慧くんに尋ねた。

「なんで慧くんがここにいるの?白石くんと帰ったんじゃないの?」

そう聞いても慧くんは「んー」って適当に誤魔化したっぽい声をだしながら私の隣の席から椅子をずりずりと引き出し、私の隣に並べ腰をおろした。