いつもなら朝慧さんが教室に来たときに「友達になろ?」って言ってるんだけど今朝は慧さんのファンクラブの結束により不可能となった。


そのあとも何度も慧さんとコンタクトを計ろうとしたんだけど全てファンクラブの会員に邪魔をされるし、

慧さんは慧さんですぐにふら〜っとどっか行っちゃうし。


そんなこんなで今日は慧さんに「友達になろ?」と1回も言えずに放課後になってしまった。


チャイムが鳴って皆が喋りながら部活に行ったり帰ったりする中、

朝から悶々としていた私は気分を入れ替えたくて、みっちゃんに「先帰ってて」と言いこっそり出入り禁止の屋上に行った。




ギイっと古びた金属の音を立てて扉を開けると風がスウッと吹いてきた。


スカートの裾が軽くはためく。


私は1人でいることを確かめるかのように「あーー」と大きな声を出して寝転んだ。


まるで絵の具で塗ったみたいな色をした青空が視界いっぱいに広がる。


…あぁ、落ち着く。


硬いけどなぜか寝心地がいい屋上のコンクリートを背中で感じながらだんだん瞼が落ちてくる。


…このまま寝れるかも…。





「なにしてんの。こんなとこで。」


不意に上から声が聞こえてパッと目を開ける。


「け、慧さんっ…」


「こんなとこで女子が寝転んでるとか襲ってくださいって言ってるのと同じ。」


初めて会ったときみたいに上から見下ろす慧さんを見て急にあのときが恋しくなった。



「あ、あのっ、慧さんっ…」


「何?」


「私と…友達になろ?」


「無理。」



「そっか…。」




…やっぱそうかるか…。


起き上がってスカートをパンパンとはたき、私は帰ろうとした。




「…てかさ、」



屋上の扉に足を向けたとき慧さんが声を発した。


いつもは慧さんが「無理」って言ってそれで終わりなのに。


慧さんから言葉が続けられたことが嬉しくて振り向くと



「慧さんとか…やめてよ。なんか違和感ある。」



…あ、そういう要件ですか…。


「あ、うん。分かった。…じゃあ、如月くんで。」


そう言うと慧さん_如月くんはキョトンとした顔になってぷっと笑いだした。



「ふっ…いやっ…そういう意味じゃなくてっ…ふはっ」



「…?」



え?私なんか変なこと言った?



「さん付けをやめなよっていう意味。」


「あっ…そういうことか。」


まだ口元を緩めつつそう言われてようやく理解できた私。


「えっと…じゃあ慧くん、?」


「うん。」



いつもそんなに話さない慧くんが私の呼びかけに答えてくれたことに少し感動する。


「慧くんっ」


「はい。」


「慧くん。」


「何。」


「慧くん!」


「…。」


「ごめんなさいごめんなさいっ調子乗りましたっ」



嬉しくなって色んなテンションで呼んでみるとだんだん真顔になってきて最終的には何も答えてくれなくなったから焦って謝る。


そんな私を見てちょっと慧くんの口角がちょっと緩められた。


もしこのまま「やっぱ慧くん呼びはなし。」とか言われたらどうしようと思っていたので少しほっとする。


慧くんは私の横を通り過ぎ屋上の扉のドアノブに手をかけると私を見て「じゃ。」と言い屋上を出ていった。