決勝の立が始まった。男子の決勝に残ったのは、岩月Aチーム、東武農業第三Aチーム、岩月Bチームの三校に加え、僕達草越Aチームの四校。決勝の立順は東武農業第三Aチームと岩月Bチームが先に入り、その後に岩月Aチームと草越Aチームが入ることになった。
 先行の立の結果は既に出ており、緑の鉢巻が特徴的な東武農業第三Aチームは十二射十一中と最高の結果を納めた。一方、四校中最下位の岩月Bチームは十二射九中。予選より一本多く中てて立を終えた。この結果を踏まえると、弓道部存続の為には予選以上の結果を出すことが最低条件となった。
 岩月の先生の合図で立に入る。前射場が岩月Aチームで、後ろ射場が草越Aチームといった配置。僕は全員の射を、ある程度見ることができる位置にいた。
 先に動いたのは岩月の大前、橘だった。高瀬が取懸けに入るころには、既に引分けを終えて会に入っていた。
 パンッ。
 高瀬が打起したのと同時に、爽快な音が響き渡る。
「「ッシャア!」」
 岩月の生徒が歓声を上げた。予選では上がらなかった歓声。決勝に残れなかった各校のチームメイトが、決勝の舞台にたどり着いたチームを応援する。声量が大きな高校は、強豪校の特徴と言われている。声の大きさに、思わず僕は身をすくませる。
 引分けに入っていた高瀬に視線を向けた僕は、直ぐに異変に気付いた。引分けのバランスが悪い。せめて弓手の方が早くおさまれば、押し切れるので中る確率はあがる。でも、今の高瀬は後ろから見てもわかるくらい、縮こまって弓を引いていた。
 今のままじゃ、左右均等に伸びることができない。肩に力が入っていることもあって、会の間もぷるぷると小刻みに震えている。
 このままじゃ中らない。
 そう思った瞬間に放たれた高瀬の矢は、予想通り的を射ぬけなかった。
 高瀬が一射目を外した。大前の人間にとって一射目は、絶対に中てなくてはいけない一射。僕も大前で悔しい思いをしたことがある。だからこそ外した高瀬が、今何を思っているのか、何となく理解できる気がした。
 サッカーや野球といったスポーツでは、失敗したときに「どんまい」「次、頑張ろうぜ」と励ましの声をかけることができる。でも、弓道では立の間に話すことが許されない。チームで戦っていても、まるで一人で戦っているような錯覚に陥ることがある。