やがて、ゆうちゃんの努力の甲斐あってなのか、先輩と晴れてお付き合いすることになった。
「まさか、本当に先輩が私のこと好きになってくれるなんて……」
ゆうちゃんは半信半疑になりながらも、夢見心地で先輩と毎晩連絡を取り合った。先輩が勉強のモチベーションに繋がるからと、ゆうちゃんにお揃いのシャーペンをプレゼントしてくれた時は、ゆうちゃんは部屋で飛び上がって喜んでいた。しーちゃんとの電話も大半が惚気のような恋バナになり、しーちゃんはその甘くとろけるような話に半ば呆れながらも、何度も喜んだ。
ただ、ゆうちゃんの悲観的な性格から、付き合ってからもおしゃれに気を抜くことはできなかった。先輩は自分のどこを好きになってくれたんだろう、と部屋で度々こぼすゆうちゃんは、先輩が二つも年上だということもあり、自分はもっと大人っぽく居なければならない、と思い込んでいるようだった。一年生は上級生に気を遣ってなのか、ブレザーのボタンはしっかり留めておくのがゆうちゃんの高校では暗黙の了解だった。二年生になってようやくブレザーの前を閉じずにラフに着れるようになるのだ。ブレザーの前をしっかり留めている自分は、校則という名の箱におさめられている子供のような気がして、箱からするりと抜け出すことのできる先輩が随分大人に見える。ゆうちゃんはそう感じることが多く、先輩の彼女としての自信を無くす日も多かった。
夏休みに入ると、初デートとして一緒に映画を観に行った。先輩は塾に通っているので会えない日も多かったが、ゆうちゃんは電話やメッセージを交わすだけで十分嬉しそうだった。先輩と同じシャーペンを使って夏休みの課題に励み、休憩と称して先輩からのメッセージを見返しては頬を緩めた。
夏休みの間も、自由参加で部活動はあった。先輩ら三年生は受験勉強を理由に殆ど部活には顔を出さなかったが、ゆうちゃんは先輩がいなくても部活動には欠かさず行った。部活のない日はクラスの子と遊びに行ったり、お母さんと買い物に行ったりと、充実した夏休みを送っていた。
「ゆう、最近先輩と会えてるの?」
「最後に会ったのは先週の月曜日かな。夏期講習が忙しいんだって」
「もう十日も会えてないの?受験生ってそんなに大変なんだねえ。夏休み最初の頃はもっと会えていたのにね」
「そういえばそうだね。どんどん忙しくなっているんだよ、きっと」