ぼくの想定通り、高校生活が始まるとゆうちゃんは毎日を忙しそうに過ごしていた。前より早く起きて、早く家を出る。前より遅く帰ってくるようになって、寝るのも遅くなったが、ぼくのことを気にすることが一気に少なくなった。
ゆうちゃんは高校も調理部に入部した。親友のしーちゃんも同じ高校に進学し、クラスは離れてしまったものの週に二回の部活動で顔を合わせるようだ。引っ込み思案のゆうちゃんだけど、クラス内で社交的な女の子に話しかけられて以来、すっかりクラスに馴染んでともだちも沢山出来たという。ゆうちゃんが夕飯時にパパやママに学校のこと、ともだちのこと、部活のことを楽しそうに話すのを、ぼくは遠くからぼんやりと聞いているのだ。
あとは、クラスが離れてしまったからか、中学の頃に比べて頻度の上がったしーちゃんとの電話からも、高校生活っぷりが分かった。
たとえば、今、ゆうちゃんには気になる先輩がいる、とか。
「先輩、絶対ゆうに気があると思うんだよね」
「もうっ、ひーちゃんはそればっかり言う。私なんかに気があるわけないじゃん」
「そんなことないって!先輩、わざわざこっち来てゆうに話しかけたりするけど、他の一年とはあまり話さないじゃん」
ゆうちゃんは携帯での通話をスピーカーモードにし、明日の支度やプリントの整理をしながらしーちゃんと電話をする。女の子同士の秘密のおしゃべりを盗み聞きしているようで申し訳ないけど、流れてくるものはどうしたって聞こえてしまう。
少し頬を赤らめたり、少しぼんやりと宙を見たりと、ゆうちゃんも十分先輩のことが気になっているのだ。
話を聞くところによると、先輩は同じ部活の三年生のようだ。調理部は活動がゆるいため、三年生の引退時期は個々の自由であり、夏前にさっさと引退する人もいれば冬になるまで気分転換もかねて部活を続ける人もいるらしい。
優しくて、爽やかで、背の高い、カッコいい先輩。そう評価するゆうちゃんの瞳は乙女のものだ。
ゴールデンウィークが明ける頃には先輩と連絡先を交換し、前期試験終わりには先輩とパンケーキ屋に寄り道をした。ゆうちゃんが先輩との仲を深めるほど、おしゃれになっていった。くせっ毛の太い髪には縮毛矯正をかけ、リップを色付きのものに変えた。ゆうちゃんはずっとかわいいけれど、恋をするともっとかわいくなるんだなあ。ぼくはベッドの隅でぼんやりと見守る。