ゆうちゃんは受験生になると、駅前の塾に通うようになった。週に3回、学校から帰ってくると教科書を入れ替えてまた家を出る。塾がない日は机に向かって宿題や問題集に取り組む。たまに息抜きにと友達と電話をしている。
そういえば、ゆうちゃんの机の上は以前と比べてシンプルになっていた。キラキラのペンが沢山詰まっていたペン立てにはマーカーペンが入っているし、シール置き場は時計や卓上カレンダーに変わっていた。ピンクが好きなのは変わらないようだが、明るくてキラキラとしたピンクではなく薄い柔らかなピンクのものが増えた。
寒い季節になると、ゆうちゃんの机の前の壁には貼り紙が貼られるようになった。「第一志望・○○高校に合格する!」、「試験まであと24日!」、「努力を怠らない!」等たくさんの言葉が貼ってある。ゆうちゃんは机でうっかり寝てしまった後はいつも泣きそうな顔で参考書に向かう。模試の結果が良くなかった時、メソメソと泣いてしまう。けれど、ゆうちゃんが一生懸命努力を積み重ねていくのを、誰よりもぼくが見ている。問題集を最後までやり切った時も、日付を越えてもペンを動かし続けた時も、ぼくはずっとそばに居たのだから。
「ゆうちゃんならだいじょうぶだよ」という言葉を、どうにかして届けたいと願ってしまうよ。
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寒く厳しい冬も明け、春がやってきた。
「お母さん、恥ずかしいよ……」
「なにいってるの、ゆう。おめでたい節目には必ず写真を撮らなくちゃ」
「そうだぞ、ゆう。しっかし、入学式まで桜がもってくれて良かったなあ」
ゆうちゃんの努力は実り、桜が咲いた。憧れの高校の、まだしわ一つない紺色のブレザーを羽織り、玄関の前で記念撮影をした。外からパパとママの嬉しそうな声を、ぼくはゆうちゃんの部屋からじいっと聞いていた。
ゆうちゃんはこれから、電車通学をするようになる。登校時間が長くなって、ともだちも沢山出来て、外にいる時間がもっと増えるんだろう。ゆうちゃんの成長は、いつまで経っても嬉しいようでちょっぴり寂しい。ゆうちゃんがこの家に居なければ、ぼくはゆうちゃんのそばに居られないのだから。