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今日はゆうちゃんの帰りが遅い日だ。
毎週水曜日は部活動があり、ママのパートより少し遅い時間に帰ってくる。
ゆうちゃんは中学に上がって、調理部に入部した。ゆうちゃんは引っ込み思案で悲観的だから、チームワークが重要なスポーツや音楽の部活は怖がって入らなかった。文化部で、ゆるく活動できる部活。それがゆうちゃんの部活選びの基準だった。仲良くなった隣の席のしーちゃんに誘われた調理部の見学で、学年関係なく和気あいあいと料理をするその雰囲気に惹かれ、入部を決めたという。
作るものは毎回バラバラで、自分たちで予算や調理時間を踏まえてレシピを選ぶそうだ。部活動で作った料理はその場でみんなで楽しく食べて、余ったものは各自持ち帰ることができるらしい。だからゆうちゃんは、水曜日はいつも美味しそうなにおいをまとって帰ってくる。くんくん、今日はバナナを使ったマフィンか何かかな。
調理部に入ってから、休みの日はママと一緒に台所に立つことが多くなった。料理が好きなママと色んなご飯を作るのは、ゆうちゃんにとってもママにとっても楽しい時間のようだった。昔から想像豊かなゆうちゃんは、料理を盛り付けたりお菓子にデコレーションするのがとっても上手だった。パパが褒めると、ゆうちゃんは決まって「そんなことないよ」と控えめに笑う。パパは一人娘が大好きでたまらないようで、ゆうちゃんが料理するたびにスマホのカメラにおさめて喜んでいた。
ぼくはと言うと、最近はゆうちゃんと一緒のふとんで眠ることはほとんど無くなってしまった。ゆうちゃんはもう一人で眠れるくらい大きくなったのだ。ちょっぴり寂しいけれど、ベッドの枕元にはぼくを置いてくれる。こうしてそばに居させてくれるだけで十分だ。
ゆうちゃんが学校に行っている間、たまにママがゆうちゃんの部屋を掃除しに入ってくる。ハンディ掃除機をかけながら「そろそろゆうも反抗期が来るかしらねえ」と呟く。ゆうちゃんは「シシュンキ」だから、パパやママに反抗することが増えてくるかもしれないというのだ。パパとママに反抗するゆうちゃんを、ぼくはあまり想像できなかった。昔はよく感情を表に出す、そういう意味では素直な女の子だったけれど、大きくなるにつれ引っ込み思案や小心者のところが強く出るようになって、昔ほど感情を出さないようになった。
実際、中学二年生になっても三年生になっても、ゆうちゃんには顕著な反抗期はやってこなかった。