ゆうちゃんが小学三年生になると、ママはパートに出るようになった。ぼくにはよく分からないけれど、どうやら「トモバタラキ」というようで、平日はママが十八時過ぎに帰ってくるまでゆうちゃんはお留守番をしなければならない。
ぼくはお留守番が得意だ。ゆうちゃんが帰ってくるまでゆうちゃんのお部屋をぼくが見守っていなければならない。そうしてじいっと任務を遂行していると、あっという間にゆうちゃんの「ただいま!」が聞こえてくる。
でも、ゆうちゃんはお留守番があまり好きではない。週に二回はおじいちゃんかおばあちゃんが家にやってくるが、それ以外の日は寂しくて泣いてしまうこともあった。ぼくはゆうちゃんのそばにいることしかできない。こういう時は決まって、ゆうちゃんは泣き疲れて、帰ってきたママに起こされるまで眠ってしまうのだ。
やがて、DVDや漫画を買い与えられると、寂しさで泣くことは少なくなった。ママもゆうちゃんをお留守番させることが心苦しいのか、ゆうちゃんと交換ノートを始めた。ゆうちゃんが学校から帰ってくると机の上にママからの交換ノートが置いてあり、それに返事をするようにゆうちゃんがノートに色々と書き込んでいく。ゆうちゃんは絵を描くのが好きなのか、好きなキャラクターやその日の給食のおかずをイラストにしてお返事することも多い。ある時は絵しりとりでノートを回していることもあった。
ゆうちゃんのパパも、毎週は難しくとも週末になると色んなところへゆうちゃんを連れて行った。ゆうちゃんのパパは「リケイ人間」というものらしく、科学館やプラネタリウムに連れていくことが多いようだった。ゆうちゃんは難しいことは分からなかったみたいだけど、パパがとなりで一生懸命説明してくれるのが楽しいようで、帰ってからぼくに色んなことを教えてくれた。
「あのね、おりひめさまがベガっていう星で、ひこぼしさまがアルタイルっていう星なんだって」
「リニアモーターカーって、かっこいい乗り物があるんだけどね、磁石の力ですっごい速さで走るんだって!電流が流れると、びゅんって!」
「地球にある大陸って、最初はくっついてたらしいよ!ウェゲナーっていう人が気付いたんだって!」
ママはあまりそういうのに興味はなかったようだけど、ゆうちゃんが思いのほか楽しそうに話すので、ママは嬉しそうだった。