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 ゆうちゃんははじめに、ぼくに名前をプレゼントしてくれた。ぼくをたくさん抱きしめたあと、「あなたはアイちゃんね」と名付けてくれた。名前の由来は分からないけれど、ぼくを見つけてくれた子が名付けてくれた名前なら、なんだって最高だ。
名前をプレゼントしてもらった日から、ぼくはゆうちゃんと一緒に過ごす日々を送るようになった。一緒に過ごす時間が増えていくと、ゆうちゃんについて知ることもどんどん増えていった。たとえば、ゆうちゃんは数ある遊びごとの中で特におままごとが大好きだ。昨年のサンタクロースさんにもらったというキッチンセットで、ぼくに「ごちそう」をもてなしてくれる。コンロが3口、蛇口の付いた銀色のシンク、キッチン下収納などついた本格的なセットで、ゆうちゃんはいつもママの真似をするように野菜を切り、お肉やお魚をフライパンで焼き、ぼくの目の前で盛り付けてくれる。ある日は子供用のエプロンをつけていたし、ある日はぼくが食べ物をこぼさないようにとギンガムチェックのハンカチをエプロンのように体に巻き付けてくれた。
それから、ゆうちゃんはおままごとに疲れると、ぼくを抱いてお昼寝をする。ご飯の時間もぼくをとなりの椅子に座らせてくれるし、毎日可愛らしいブラシでぼくの毛並みを整えてくれる。夜、ひとりで寝るのが怖いとパパやママと寝ていたらしいゆうちゃんは、ぼくがやってきてからは自分のベッドでぼくと一緒に眠るようになった。ゆうちゃんは寝相があまり良くないので、ゆうちゃんが動くはずみでぼくがベッドから落っこちてしまうこともたくさんあるし、ゆうちゃんのよだれがぼくの体についてしまうこともある。けれどぼくは気にしないし、たまにゆうちゃんのママがぼくを洗っておひさまに当ててくれるのですぐきれいになれる。なにより、ゆうちゃんがいつもぼくと一緒にいてくれるだけで嬉しかった。
ぼくが家に来て、窓の外の景色が2回ほど変わった頃。ママに絵本を読み聞かせてもらうことが好きなゆうちゃんが、ひらがなを自分で読めるようになった。そうなると今度はゆうちゃんがぼくをひざに乗せて絵本を読み聞かせしてくれるようになった。最初の頃はスラスラと読むことは難しく、時間をかけて一生懸命読んでくれた。しばらくすると文字を読むのが上手になって、まるで自分が絵本の中の主人公のように、大きな声を出したり、顔をしかめたり、ぼくの体をゆすったりしながら読んでくれるようになった。ゆうちゃんはお姫さまが出てくるお話やどうぶつが出てくるお話が好きで、好きな絵本の表紙にキラキラとしたシールをたくさん貼っていた。ママは本に落書きすることはきつく怒るが、シールを貼ることは見過ごしてくれた。