(ぼくにも こころが あるんだよ)


ぼくは誰よりもゆうちゃんを近くで見てきた。ゆうちゃんが部屋でひとり泣いたときも、一生懸命勉強を頑張っていた時も、お留守番が寂しくてぼくと遊んでいた時も、みんなの知らないゆうちゃんをぼくは沢山見てきた。ゆうちゃんのいない時も、ゆうちゃんの場所をずっと見守ってきた。
ぼくの方が、ゆうちゃんをよく知っているのに。
ぼくにとってゆうちゃんが一番だけど、ゆうちゃんの一番はもう僕じゃなくなってしまう。寂しいのかもしれない。悔しいのかもしれない。妬いているのかもしれない。
「本日はおめでとうございます」
しばらくして式の受付が始まった。ドレスやスーツに身を包み、綺麗に着飾った人たちが次々とやってきた。こんなに多くの人の前に座るのは初めてのことなので、ぼくは一気に緊張してしまった。
やってくる人たちをじっと見る。知らない人の方が多かったけれど、ゆうちゃんの部屋に飾ってある写真にうつっている子や親友のひーちゃん、たまに家に遊びに来るゆうちゃんのいとこ、何人か顔の分かる人もいた。
式の時間まで話に花を咲かせる人たちを、静かに見守ることにした。
「ゆうと会うのは久しぶりなのよね。ドレス姿、きっと綺麗なんだろうなあ」
「ゆうちゃんの恋の相談、よく乗っていたんだよね。きっとひーくんと合うだろうなと思ってたら、まさかゴールインするなんて、感慨深いよ」
「ウェルカムボードのところに飾ってあった写真、見た?ゆう、すっごくかわいいね」
「ゆうが幸せそうで、よかった」
ぼくは初めて、家族以外の人がゆうちゃんのことを話すのを聞いた。各々がゆうちゃんとの思い出を持っていて、ゆうちゃんへの愛がある。
ぼくはぼくの見える範囲でしかゆうちゃんの世界を知らなかった。ゆうちゃんはぼくだけじゃなく、ひーくんやみんなを大切にしてきたんだ。そしてここに来たみんなが、ゆうちゃんを祝福したいと思っている、ゆうちゃんのことがだいすきな人たちなんだ。
ゆうちゃんがどんなに周りを大切にしてきたのかがよく分かった。ぼくは背筋をぴんと伸ばした。
ぼくは寂しさも悔しさも持っているけれど、でも、ゆうちゃんには誰よりも幸せでいてほしい。いつまでも笑っていてほしい。
ぼくはゆうちゃんのことがだいすきなのだから。