ぼくはしあわせものだなあと、つくづく思う。小さい頃の遊び相手で終わらず、大きくなって、家を出ても、こうしてぼくのことを見てくれる。ぼくの唯一のともだちがゆうちゃんであることは、ぼくの誇りなのだ。
ふと思う。ぼくはゆうちゃんのともだちになれたのだろうか。おじいちゃんに頼まれた「ともだちになってほしい」という願いは、叶えられたと言っていいのだろうか。そういえばぼくは、ゆうちゃんがぼくのことを「ともだち」と言ったのを聞いたことがなかった。言うまでもなくともだち、だという意味ならそれはとても嬉しいことなのだけど。
「ゆうー。パパが帰ってきたわよ。ご飯にしましょう」
下からママの声がする。「はあい」と返事をし、バタバタと階段を降りていくゆうちゃんを見て、なんだか昔の光景とそっくりで胸がじいんと熱くなった。
○
今日は早朝から家中バタバタと大忙しだった。
ゆうちゃんは前日からおうちに帰ってきていた。「最後の夜だから」とパパとママと食事をし、軽くワインを交わし、しんみりとした時間を過ごしていた。
ぼくは久しぶりにゆうちゃんの手で綺麗にしてもらい、珍しく一緒に車に乗った。ぼくを膝の上に乗せてくれたママは、口を頑なに閉じて涙をこらえているように見えた。隣のパパも、あまり口を開かずに遠くを見ているようだった。
今日、ゆうちゃんは、花嫁さんになるのだ。
「本当は、おじいちゃんに見せたかったな」
ゆうちゃんはぼくの頭を撫で、真っ白い机の上にぼくを置いた。ぼくの今日の役目は、ウェルカムボードの横でみんなをお出迎えすることなのだ。
「おじいちゃんにもらった、大切なものなんでしょ?じゃあきっと、ここからゆうのことを見届けてくれるよ」
ぼくの手を優しく握ってそう言ったのはひーくんだった。ゆうちゃんはそうだねと涙をこらえて口角をあげた。
なるほど、たしかにひーくんが隣にいるとゆうちゃんは本当にしあわせそうに笑う。ぼくは複雑だった。ずっと一緒で、ずっと見守ってきた、ぼくにとって唯一無二のだいすきな子のおめでたい日だ。ゆうちゃんがしあわせそうに笑って、嬉しそうに話すのはぼくも嬉しい。ゆうちゃんのしあわせが、ぼくのしあわせなのだ。なのに、ぼくの心には他の感情もあるのだ。



