しーちゃんとの電話も、先輩と会えていないのもあって恋バナの割合は減っていった。ゆうちゃんは寂しいに決まっている。ずうっとゆうちゃんを見てきたぼくだから分かる。でも、寂しいことを寂しいって素直に言えないゆうちゃんの性格もよーく分かっている。
結局、先輩と中々会えないまま夏休みはあっという間に明けた。
八月最終週、始業式。この日は、ゆうちゃんは久しぶりに先輩と一緒に帰って駅前のカフェでお茶をするんだと嬉しそうに言っていた。早起きして鏡の前で必死に髪を編み込んで、すっきりとした髪型を作った。ゆうちゃんは何でも似合うけど、今日のゆうちゃんは少し大人っぽく見える。ゆうちゃんなりの背伸びだ。
「いってきます!」
嬉しそうに学校へ向かうゆうちゃんを見送り、ぼくはいつものようにゆうちゃんの部屋をしっかりと見守る。
時計の針が回っていくと、窓から入る光も変わっていく。最初はぼくの周りもぽかぽかと日向ぼっこが出来るけれど、しばらく経つと光は部屋の向こうへ駆けていく。ゆうちゃんの部屋は二階なので、道路を行き交う人や車は見えないけれど、空を飛ぶ鳥や雲の流れはよく見える。このままだとこれから天気は悪くなりそうだなあ。ゆうちゃんが雨に降られて濡れなければいいけれど。
静かに、ただ静かにじいっとお留守番任務を遂行していると、先にママが帰ってきた。ママはパートから帰ってくるとすぐに洗濯物を取り込み、夕飯の支度を始める。空はどんよりとしたグレーだ。耳を澄ませると、トントントン、とリズミカルな包丁の音が聞こえてきた。
今日の夕飯はなんだろう。ゆうちゃんの苦手な麻婆茄子かな。それともパパの好きなポトフかな。ゆうちゃん、早く帰ってこないかな。
ママが料理をはじめてしばらく経つと、玄関の開く音が聞こえた。でも、いつも聞こえるただいまの声がない。
「……ゆう?おかえりー。遅かったわね」
「うん……」
ゆうちゃんの声に元気がない。いつもより静かな足音がこっちに向かってくる。
部屋に入ってきたゆうちゃんの顔は、血の気のひいた真っ青な顔だった。目も潤んでいるように見える。ゆうちゃんはそのままベッドに倒れこんだので、ぼくの体も大きく揺れる。ゆうちゃんは随分と具合が悪そうだ。ゆうちゃんは布団にくるまって動かなくなってしまった。