出会いの日がいつだったか、どんな場所でどんな風に出会ったか、キミは覚えているだろうか。
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「あ!わんわんだ!」
そういってその女の子はぼくをめがけて飛び込んできた。ぎゅうう、と締め付けられるその強さが、そういえば苦しく感じなかった。おじいちゃんの手からその子の手に渡ったぼくは、女の子のぬくもりを静かに感じていた。
「おひるにみたわんわん!じいじ、かってきてくれたの?」
「ゆうちゃんが喜ぶと思ってね、こっそりお迎えしてきたんだよ」
「じいじ、ありがとう!」
女の子はぼくを抱えてパパとママに見せに行った。
ぼくはショッピングモールの一角にずっと並んでいた。どれくらいずっとかというと、目の前の景色が3回変わるくらいだ。もしかしたら4回かもしれない。周りの仲間も何度も変わった。一度、黒いアーフェンピンシャーと隣同士になった時は通りがかった女性に「仲が悪そうね」と話しかけられたが、あの子はとてもいい子だった。優しい面持ちのあの子はすぐにいなくなってしまったのでぼくは少し寂しくなった。艶やかで美しい毛並みを持つラグドールは何匹も消えていき、そのたび誇らしそうにぼくに視線を投げかけた。
ずっと、誰かに迎えてもらうのを待っていた。ずっとずっと、それはもうずっとだ。
数日前に「売り場替え」というものでぼくの前にいた人気の子たちが他の場所へ移動した。ひょっとしたらぼくも誰かに見つけてもらえるかもしれない。短い間でもいい、ぼくを必要としてくれる子に見つけてもらいたい。そう願い続け、ようやくこの女の子に見つけてもらえた。
細い髪をゆらゆらと揺らし、白い肌に大きなえくぼを作る女の子。ぼくを見つけ、欲しいと両親にねだるが、我慢しなさいと言われしぶしぶその場を後にした。見つけてもらえたのに残念だったなあ、とぼくは少しがっかりしたが、その後その子のおじいちゃんが一人でぼくを迎えに来てくれた。
「もう、お義父さんたらゆうを甘やかしすぎですよ!」
「いやあ、ゆうちゃんが喜んだ顔が見たくてなあ。イヌ、可愛いだろう?」
「確かに可愛いですけども」
おじいちゃんはぼくをこの家に運びながら、ゆうちゃんは一人っ子で小心者だから、ともだちになってほしい、そうぼくに願いを託した。
奇遇なことに、ぼくも小心者だ。ひとりじゃ何もできないし、ともだちだっていない。だから「ともだちになってほしい」のはぼくの願いでもあるのだと気付いた。
ともだちがいないぼくに、初めてともだちができるかもしれない。それでもぼくは何も出来やしないと思うけど、もしもともだちになれたらずっとそばにいると約束するよ。
ぼくから離れることなんて、出来やしないんだけどね。