きっと御坊君はクラスのみんな以外にも、自分自身をずっと騙してきたのだろう。
 自分の弱みをひた隠しにして、一人で戦っていたのだ。
 そんな彼がわたしの惨状を見て、なにを思うのか――想像するのは決して難しくない。
「――でも、できなかった。中学の時のことが頭を過ぎって、何もできなかった。結局はまた昔みたいに、イジメられるのが怖くなったんだ。だから傍観者という形でイジメに荷担して、定家さんを見殺しにしたんだ。僕は……最低な卑怯者だ」
 自嘲するように、御坊君は言葉を続けた。
 言葉の刃を自らの胸に突き立てて、詰るように自らを責め立てている。
「本当はその痛みが誰よりも分かるからこそ、味方になってあげるべきだったのに……結局は自分の保身に走ったんだ。当時、僕のイジメに荷担してたヤツと何にも変わらない」
「――御坊君は自分が許せなかったんだね」
「うん……そうだよ。僕は自分自身が許せなかったんだ」
 泣き笑いのような表情を浮かべて、御坊君はわたしの言葉に頷いた。
 きっと彼はわたしのイジメ現場を目撃し、誰よりも心を痛めていたのかもしれない。
 過去の自分の姿と重ね合わせて、相当の葛藤をしていたはずだ。
「でも……どうして篝火さんまで?」
 篝火さんと御坊君は付き合っていた。例えイジメに荷担していたとしても、自分の恋人を貶めるようなことをなぜしたのか。それだけが分からなかった。
「ははっ、確かに僕とアイツは付き合っていた――表向きにはね」
「え、それって……御坊君は篝火さんのことが好きだから、恋人になったんだよね?」
「僕が〝あの女〟を好きだって? 止めてくれ、悪い冗談だ」
 しかし御坊君は、嘲笑うように口角を吊り上げる。
 その物言いに疑問を覚えたわたしは確認するように尋ねるが、彼は嫌悪感を隠そうともせずに吐き捨てるように答えた。
 その表情は自らの恋人を語る顔ではなく、もっと別のなにか――例えば親の敵の名でも口にするような、そんな暗い感情が見え隠れしている。
「僕がアイツと付き合ったのは、向こうから告白されたからだよ。篝火紫陽は女子グループの筆頭だからね、下手に断ったとしたら今後の人間関係に関わってくる」
 御坊君が言うように篝火さんは、女子グループを取りまとめている人間だ。