「最後に悪実って名前――そもそも悪実って言うのは調べてみたら、ゴボウの別名みたいだね。ゴボウを御坊に読み替えると……御坊。これらをつなぎ合わせると――御坊黒羽。わたしのことを知ってる人で、ここまで条件を満たしているのは御坊君しかいなかった」
 偽名の心理、と言うものがある。
 人間はとっさに偽名を考えるとき、多くが何かしら自分に関連するものを選んでしまうらしい。他人から見て分かりにくい法則ではあるが、無意識の内にそうしてしまうのだ。
 例えばパスワードやIDでも同じかもしれない。自分とは無関係なものを選んでは、思い出すのに苦労してしまう。だからこそ自分と関連づけ、覚えやすいものを選んでしまう。
 御坊君の場合もきっと、そう言った心理が働いていたのかもしれない。
「ねえ御坊君、違うなら違うって言って……?」
 ここまでの根拠を語り終えたわたしは、懇願するように問いかけた。
 こんな推理は間違っていて欲しい。本当の犯人は別にいる。そんな淡い希望を抱いて。
「驚いた……適当につけたものだけど、こうやって言い当てられるとは思わなかったよ」
 しかし――御坊君は無表情を崩して、困ったように笑ってみせた。
「やっぱり、君はすごいね。定家さんは頭が良いや」
 どこか疲れたような笑みを浮かべて、御坊君は肩を竦めた。
 そんな彼を見て、どうして? とは聞けなかった。
 だってわたしは、彼がここまでに至る〝動機〟を知っているから。
「目的は――復讐、なの?」
「……そっか、中学のことまで知ってたんだ」
 ゴクリ、と固唾を飲んで投げかけた問いに、御坊君は苦笑混じりに答える。
「そうだよ。おれは中学三年生の時、イジメられてたんだ」
 大きく息を吐き出すように、御坊君はポツリポツリと当時の語り出した。
「きっかけは些細なことで、まあよくある話なんだけど……その時は相手が悪かった。男子の中でもグループの中心にいるような奴をおれは敵に回したんだ」
 彼の中学での話はお兄ちゃんから交友関係の広い飛燕さんに協力して調べてもらった。
 御坊君になにがあったか知ってしまったわたしは、ただ聞いていることしかできない。