◇麒麟児巌
久遠寺大学付属高等学校へとやってきた俺たちは、校内に入り職員室へと向かった。
来賓用のスリッパを履いて廊下を進んでいるが、私服姿の俺は少し周囲から浮いている。
「しかし、私服で学校……ってのも変な気分だな。そもそも俺は他校の生徒だし」
横にいるカズラが制服姿なので、余計に悪目立ちしているように感じる。
今が夏休みの期間で、校内には人気が少ないのが唯一の救いだった。
「隣にわたしがいるから、そんなに気にしなくてもいいと思うよ?」
ぼやく俺にカズラは気にするなと言うが、その表情はどこか強張っている。
カズラ自身も久しぶりの学校に、緊張をしているのだろう。
「ここが職員室か……」
「うん……それじゃ、入るね」
職員室の前まで辿り着くと、俺たちは顔を見合わしたあとに意を決してドアを開いた。
室内へと踏み込むと、廊下のムワッとした蒸し暑さとは対照的な涼しい空気が、身体に滲んでいた汗を冷やしていくのが分かる。
「失礼します」
俺たちが職員室に入ると、中にいた教師たちが一斉にこちらを見たのが分かった。
夏休みのせいかその数はまばらだが、その視線は隣にいるカズラへと向けられている。
一身に注目を浴びてひるむカズラだったが、そっと背中に手を添えて「大丈夫だ、心配するな」と小さく囁く。
するとカズラは小さく深呼吸をし、気を取り直して歩き出した。
「麒麟児先生、お久しぶりです」
「おお……久しぶりだな、定家」
目的の人物がいる机までやって来ると、カズラはぺこりと頭を下げて挨拶をする。
今回、俺たちが会いに来た教師――生活指導担当の教員、麒麟児は右手を挙げて応えた。
「話は聞いている。こちらの方は?」
「兄の定家牽牛です。今日は妹の付き添いで来ました」
「ああ、そうですか。私は生活指導担当の麒麟児巌(きりんじいわお)です」
「はい。今日は無理を聞いて頂いて、ありがとうございます」
麒麟児は厳めしい強面を破顔させると、視線を俺へと移して問いかける。
カズラがそれに答える前に俺は名前を告げ、同じように頭を下げて挨拶を交わした。
「それで確か篝火の飲酒問題の時、学校宛てに届いたメールが見たいと言う話だったな?」
麒麟児は再び表情を引き締めると、要件の内容を確認するように尋ねてくる。
「はい。その時のメールを見せて頂けないでしょうか?」
カズラの真剣な表情で、麒麟児の問いに答えた。
今回、俺たちが学校まで来た理由は、事件の時に学校へ届いたメールを確認することだ。
Shabetterではあれ以上の手がかりを掴めなかったので、もう一つの証拠である可能性があるメールを見てみたいとカズラは言った。
「本来なら部外者には、見せるべきものではないのだが――」
「もしかしたら……わたしは部外者ではなく、当事者なのかもしれません」
困ったように顔をしかめる麒麟児だったが、カズラは緊張で強張った声で静かに告げる。
「定家はなにか知ってるのか?」
「……いえ、今はまだ」
久遠寺大学付属高等学校へとやってきた俺たちは、校内に入り職員室へと向かった。
来賓用のスリッパを履いて廊下を進んでいるが、私服姿の俺は少し周囲から浮いている。
「しかし、私服で学校……ってのも変な気分だな。そもそも俺は他校の生徒だし」
横にいるカズラが制服姿なので、余計に悪目立ちしているように感じる。
今が夏休みの期間で、校内には人気が少ないのが唯一の救いだった。
「隣にわたしがいるから、そんなに気にしなくてもいいと思うよ?」
ぼやく俺にカズラは気にするなと言うが、その表情はどこか強張っている。
カズラ自身も久しぶりの学校に、緊張をしているのだろう。
「ここが職員室か……」
「うん……それじゃ、入るね」
職員室の前まで辿り着くと、俺たちは顔を見合わしたあとに意を決してドアを開いた。
室内へと踏み込むと、廊下のムワッとした蒸し暑さとは対照的な涼しい空気が、身体に滲んでいた汗を冷やしていくのが分かる。
「失礼します」
俺たちが職員室に入ると、中にいた教師たちが一斉にこちらを見たのが分かった。
夏休みのせいかその数はまばらだが、その視線は隣にいるカズラへと向けられている。
一身に注目を浴びてひるむカズラだったが、そっと背中に手を添えて「大丈夫だ、心配するな」と小さく囁く。
するとカズラは小さく深呼吸をし、気を取り直して歩き出した。
「麒麟児先生、お久しぶりです」
「おお……久しぶりだな、定家」
目的の人物がいる机までやって来ると、カズラはぺこりと頭を下げて挨拶をする。
今回、俺たちが会いに来た教師――生活指導担当の教員、麒麟児は右手を挙げて応えた。
「話は聞いている。こちらの方は?」
「兄の定家牽牛です。今日は妹の付き添いで来ました」
「ああ、そうですか。私は生活指導担当の麒麟児巌(きりんじいわお)です」
「はい。今日は無理を聞いて頂いて、ありがとうございます」
麒麟児は厳めしい強面を破顔させると、視線を俺へと移して問いかける。
カズラがそれに答える前に俺は名前を告げ、同じように頭を下げて挨拶を交わした。
「それで確か篝火の飲酒問題の時、学校宛てに届いたメールが見たいと言う話だったな?」
麒麟児は再び表情を引き締めると、要件の内容を確認するように尋ねてくる。
「はい。その時のメールを見せて頂けないでしょうか?」
カズラの真剣な表情で、麒麟児の問いに答えた。
今回、俺たちが学校まで来た理由は、事件の時に学校へ届いたメールを確認することだ。
Shabetterではあれ以上の手がかりを掴めなかったので、もう一つの証拠である可能性があるメールを見てみたいとカズラは言った。
「本来なら部外者には、見せるべきものではないのだが――」
「もしかしたら……わたしは部外者ではなく、当事者なのかもしれません」
困ったように顔をしかめる麒麟児だったが、カズラは緊張で強張った声で静かに告げる。
「定家はなにか知ってるのか?」
「……いえ、今はまだ」