人間は弱い。だから基本的に否定されることを恐れてしまう。
 自分を肯定してくれる人間がいないことは、想像するだけで恐ろしい。
 学校という常に集団行動を強いられる環境では、それがより一層に恐ろしさが増す。
 幸いにも今までイジメを経験していない俺にも、そのくらいは容易に想像がつく。
「馬鹿、野郎ッ――そんなこと……そんなこと、思うわけねぇだろ……ッ!!」
 俺は思わず声を荒げてしまった。拳を固く握りしめて、必死に歯を食いしばる。
 カズラの気持ちが痛い程に分かってしまって、どうしようもないくらい悔しかった。
 自分が好意を抱いている人間に対して、全てをさらけ出すのは難しいことだ。
 漫画やアニメの世界ではそんな場面でも、様々な葛藤の末に全てを打ち明けるのだろう。
 でもこれは現実だ。もし拒絶されたら、と言う考えは常に頭の中にチラつく。
 そして失敗すれば、今までの関係が壊れたまま一生を過ごすことになる。
 それでも。それでも、だ。自分勝手なワガママだが、やっぱり俺は頼って欲しかった。
 同時にカズラが頼ってくれる程、信頼を築けていなかった自分が情けなかった。
「うん……ありがとう。お兄ちゃんならきっと、そう言ってくれるって今は思える。でもあの時のわたしは、そんな当たり前のことも信じられないくらい追い詰められてたんだ」
 他人から否定され続ければ、やがてそうもなってしまうだろう。
 精神的に摩耗して、磨り減って、疲弊して、疲れ切ってしまう。
 カズラは優しい性格だ。自分のことよりも、まずは周囲の様子を気にしてしまう。
 だからこそ他者から否定され続けるのは、想像を絶する程に苦痛だったのだろう。
「本当はね、お兄ちゃんがそのことを気にしてるのは知ってたんだ。負い目を感じて、わたしに優しくしてくれたことも」
 苦笑いを浮かべながらカズラは言う。それを俺は黙って聞いていることしかできない。
「わたしって、悪い子だよね。本当はすぐにでも言えば、お兄ちゃんも楽にしてあげられたのに」
 自嘲気味に笑ってカズラは言葉を続ける。
「でもね、本当は何度も打ち明けようとしたんだ。でも……結局できなかった。引きこもるようになってから、お兄ちゃんはわたしにとって唯一の味方だったから。もうお兄ちゃんに見捨てられたら、生きてけなくなっちゃうから。だからずっと黙ってたの」
「カズラ……」