最後に締めくくるとカズラは、こちらを向いてフッと笑いかけてくる。
 その表情は未だに万全と言える顔色ではなかったが、いつものカズラに近い柔和な雰囲気が戻りつつあった。
「カズラ、お前は強いな」
 そんなカズラの姿を見て、思わず言葉を漏らしてしまった。
 カズラも過去の出来事へ対して、自分なりに決着をつけようとしている。
 例えそれが先の見えない暗闇の中での藻掻きだけだとしても、今までの停滞した日々から大きな一歩を踏み出したと言えるだろう。
 これまでずっと側に居た俺からすれば、こんな喜ばしいことはない。
「ううん、全然強くなんかないよ」
 しかし、カズラは静かに首を横に振った。
「わたしがお兄ちゃんにイジメことを話せなかったのはね、怖かったからなの」
 続いて口から零れた言葉は、ずっとカズラが心の内に秘めていた感情の吐露だった。
 そしてそれこそが、俺がずっと知りたかった答えでもあった。
「わたしがイジメられるような子だって知られたら、どんな風に思われるか想像するだけで怖かった。お兄ちゃんに嫌われるかもしれない、って考えると何も話せなかった」
 今にも泣き出しそうな表情でカズラは、歯を食いしばりながら言葉を続ける。
 よくよく見るとその身体は、僅かにだが震えていた。
「もちろん、お兄ちゃんがそんな人じゃないのは分かってる。でもね……イジメられて誰も味方がいなくなるとその内、悪いのは自分じゃないのかって思っちゃうの」
 顔を俯かせて、カズラは淡々と言葉を続ける。
「クラスのみんなから無視されて、机や教科書に落書きされて、上履きも隠されて……わたしがダメな子だから他の人はそれを責めてるだけで、根本的な原因は自分にあるって考えるようになったんだ。正しいのはクラスのみんなで、悪いのはわたし。そんな自分が恥ずかしくなって、一番大好きな人にそんなダメなわたしを知られたくなかった。お兄ちゃんにもクラスのみんなみたいに、白い目で見られたくなかったの……!!」
 そしてついに嗚咽混じりに、カズラはか細い声を張り上げた。
 ある日クラスの人間が全員敵に回り、誰一人の味方がいなくなったカズラは、文字通り孤立無援の四面楚歌だったのだろう。そんな状態が続けば、やがて思い至るはずだ。
 例え自分に非がなくても、悪いのは自分ではないのかと。