向こうは軽い気持ちでやったことかもしれないが、やられた側は一生のトラウマになりかねない。事実、カズラはこの一年以上の間、高校生活と言う貴重な時間を奪われている。
 だからこそ、被害者であるカズラにはその権利があるはずだ。
「わたしもね、思ったんだ。自分をイジメた人が憎いって」
 俺から目を逸らして、カズラは天井を見上げながらポツリと呟きを漏らした。
「復讐してやりたい。それこそ殺してやりたい、とも思ったりした」
 感情を押し殺したような声で、カズラは淡々と言葉を続けた。
 その表情からは恨み、辛み、嫉みと言った暗い感情が見え隠れしている。
「でもね、結局できなかった。腕力じゃ勝てないし、それ以外の方法で復讐する方法も思いつかなかったから。だったらもう、忘れちゃおうって思ったんだ。家に引きこもって学校から離れれば、辛い思いもしないで済むから。あの時のわたしって疲れてたし、もう全部がどうでも良くなっちゃったのかも。あはは……わたしって、ヘタレだよね」
 自嘲めいた笑み浮かべながら、赤裸々に当時の心情を語っていくカズラ。
 その独白を聞いていると、胸が締め付けられるように痛くなっていく。
 あの時カズラが何を考え、どんな思いでいたのか、それが今になってようやく分かった。
「だから蒲公さんから話を聞いた時は、正直に言って『ざまあみろ!』って思ったんだ。あの時にわたしがしたかった復讐を、誰か代わりにしてくれたように思えたから」
 言葉とは裏腹に、カズラの顔は晴れていない。
 泣き笑いのように複雑な表情で言葉を続けていく。
「だからこそ……知りたいと思ったの。誰が、何のために、なにを思ってそんなことをしたのか。私はそれを突き止めなきゃいけない気がしたから」
「それを知ってどうするんだ。まさかお礼でも言うわけじゃないんだろ?」
 確かな意志を感じさせるカズラの言葉に、俺は思わず問いかける。
 それが蒲公の相談を受けた理由ならば、結局のところカズラの目的はなんなのだろうか。
「うーん……正直に言えば分からない。どうしよう、ってのは別にないかな。ただそれを知るのが、わたしにとっての義務みたいに感じたの」
 カズラ自身も上手く要領が掴めてないのか、どこか漠然とした答えを返す。
「それでもこの件が解決できれば、自分の中で一区切りがつくんじゃないか……何となく、そう思うんだ」