唯一の存在証明たる勉強も、学校に行かなければ意味がない。
 あれだけ必死になって勉強した結果、最終学歴が中学卒業だなんて笑えてくる。
 最終的には特例措置として定期試験で一定以上の点数を取ることで、代わりに単位が与えられることになって退学は免れた。しかし当時のわたしは、本気で絶望していた。
 嫌われたくなくて、失望されたくなくて、呆れられたくなくて、そんな強迫観念じみた思いで必死に縋りついてきた居場所も、わたしは一瞬で失ってしまった。
 きっとお兄ちゃんは、こんなわたしを嫌いになるだろう。そう思うと悲しかった。
 でも――
「カズラ、大丈夫か?」
「無理しなくていい。カズラは今まで頑張ってきたからな、その分ゆっくり休めばいいさ」
「カズラがいつかまた学校に行きたい、って思えるようになったらその時は応援するから」
 お兄ちゃんはわたしを見捨てることはなかった。
 両親も接し方に困り距離を置く中、お兄ちゃんだけが毎日欠かさずに部屋を訪れる。
 生きる屍のようにただ日々を浪費するわたしへ、一生懸命に話しかけてくれた。
 懸命に話かけるお兄ちゃんの姿を見てわたしは、ようやく自分の思い違いに気付いた。
 ――この人は本当にわたしのことを愛し、慈しみ、思いやってくれていると。
 きっとこの世界で一番、定家葛を愛してくれるのは定家牽牛なのだ。
 お兄ちゃんがそう簡単に、わたしのことを嫌いになるはずがなかった。
 それからお兄ちゃんが貸してくれた漫画がきっかけで、わたしはオタク文化に傾倒するようになる。そこからアニメを知り、ライトノベルを知り、ゲームを知り、ネットの楽しさを知っていった。
 今まで自分の触れてこなかったものだけにその楽しさを知ると、寝食を忘れてどっぷりと浸かるようになるのには、さほど時間はかからなかった。
 引きこもりのわたしには、時間は有り余る程あったから。
 何よりお兄ちゃんと話す話題が増えるのが嬉しかった。
 自堕落な生活にお兄ちゃんは呆れ気味だったが、昔のようによく構ってもらえるのが嬉しかった。わたしは恥も外聞も捨てて、今までの時間を取り返すようにめいっぱい甘えた。
 引きこもるようになってから、わたしの部屋を訪れるのはお兄ちゃんだけだから。
 両親や定期試験の監督官として訪れる先生も、決して部屋の中にまでは入って来ない。