「……俺はそいつのことが大切だ。だから傷つけたくないし、どんなことだってしてやりたいと思ってる。でもその気持ちの裏には、どんな下心があるか気づいたんだ」
秋海棠の問いに、俺は無言の肯定をする。
そして滔々と自らの胸の内を打ち明けていった。
「それを知った時、俺は自分が許せなかった。好きだ、大切だ、愛してる。アイツのためだ、それが一番だ。どんな美辞麗句で飾り立てようと、結局は全部自分のためだったんだからな。俺自信が傷つきたくないから、ただ目を覆っているだけだったんだよ」
今まで溜め込んできた澱を吐き出すように、俺は胸の内に渦巻く感情を吐露していた。
「そう思うと、自分自身の気持ちに自信がなくなってくるんだ……相手を思いやることも、本当は自分本位の欺瞞なんじゃないか。そもそも心からそいつのことを思ってのことなのか……ってな」
紡ぎ出した言葉は止まらない。
いったい俺はなにをやっているんだろう。何も知らない秋海棠に、事情も説明しないまま好き勝手に言葉をまくし立てて。俺は自分自身の気持ちを見失っていた。
「俺は最低だ……本当に兄失格だよ」
最後に大きく息を吐き出すように、俺の言葉は途切れた。
きっと俺は秋海棠に慰めて欲しいのだろう。無様な俺を、最低な俺を、優しい彼女なら肯定してくれるんじゃないか。そんな確信めいた打算で、こうして電話をした。
それに気付いてしまって、また俺は自己嫌悪の感情に陥る。
「……分からないよ」
しかし、電話越しに聞こえた声は、どこか震えていた。
「秋海棠……?」
「ごめんなさい。定家君の言ってることが、私には分からないよ」
いつもと違って固く強張った声色に、俺は思わず動揺していた。
「誰にだって下心はあるよ。相手に好きになって欲しいから、仲良くなりたいから、大切だから、その人のために力になりたいって思うんじゃないかな。多分、誰だってそうだよ。それのどこがおかしいの? それって本当に、いけないことなの?」
静かに、しかし力強い調子で、秋海棠は言葉を続ける。
「定家君になにがあったのか、私には分からない……多分、今の定家君は悩んでるんだと思う。だから私に相談してくれたんだよね。頼ってもらえたことは嬉しいし、力になりたいとも思うよ」
この時になって俺はようやく気付いた。
秋海棠は今、怒っているのかもしれない。
そんな風に感じるのは、少なくとも彼女と出会ってから初めてのことだった。
「でも、これだけは言わせて欲しいんだ――定家君がカズラちゃんを大切に思ってる気持ちは、本当に偽物だと思うの?」
毅然とした調子で、秋海棠は問いかけてくる。
その問いに対して、俺は思わず息を飲んでしまった。
「少なくとも、私はそうだとは思わないよ。だって定家君、カズラちゃんの話をしてる時、すごく楽しそうなんだもん。あの顔を見て、きっと心から好きなんだって気持ちが伝わってきたから」
「秋海棠……」
「もし自分が信じられないんだったら、私のことを信じて欲しいな。私は自信を持って言えるよ? 定家君はカズラちゃんのことを世界で一番、大切に思ってる……ってね」
最後にいつものように柔和な声で、秋海棠はそう締めくくった。
そんな彼女の心からの言葉を聞いて、胸が温かい気持ちで満たされていくのが分かった。
「きっと……そんな定家君だから、私も――」
秋海棠は小さな声で、ポツリと呟くように言う。
「……ううん。私やナンちゃん、千鳥君やみんなも定家君のことが好きなんだと思う」
えへへ、とはにかむように笑って秋海棠は言葉を付け加える。
「ありがとう、秋海棠。何となくだけど、答えが出たような気がする」
「うん、そっか」
いつの間にか心に立ちこめていた暗雲は、綺麗に晴れていた。
どこか清々しい心地で、こんな気持ちにしてくれた秋海棠に感謝の言葉を述べる。
「本当に秋海棠には助けてもらったな。今度、埋め合わせはさせてくれ」
「え、いいよ。そんなに気を使わないで」
「いや、俺がお礼をしたいんだ。それじゃダメか?」
「えーっと、それじゃ……」
俺の提案に秋海棠は遠慮気味に答えるが、それでは俺の気が済まない。
少々強引に言葉を続けると、秋海棠は少し考えるように言葉を選ぶ。
「それじゃ――デートに連れてって欲しい……な」
「……え?」
「た、楽しみにしてるから……!」
秋海棠の口から〝デート〟という言葉が出ると、俺の心臓はドクンと高鳴る。
思わず呆けた声を漏らしたあと、その真意を尋ねようとするが、秋海棠は口早にそう告げると通話を切ってしまった。
暫く茫然とする俺だったが、不意に笑いがこみ上げてきて思わずにやけてしまう。
「まったく……カズラに知られたら、何て言われるか」
冗談交じりな言葉を口にすると、俺の心にはもう迷いはなかった。
自分の気持ちを再確認した俺は、先ほどよりも軽い足取りでカズラの部屋へと戻って行った。
秋海棠の問いに、俺は無言の肯定をする。
そして滔々と自らの胸の内を打ち明けていった。
「それを知った時、俺は自分が許せなかった。好きだ、大切だ、愛してる。アイツのためだ、それが一番だ。どんな美辞麗句で飾り立てようと、結局は全部自分のためだったんだからな。俺自信が傷つきたくないから、ただ目を覆っているだけだったんだよ」
今まで溜め込んできた澱を吐き出すように、俺は胸の内に渦巻く感情を吐露していた。
「そう思うと、自分自身の気持ちに自信がなくなってくるんだ……相手を思いやることも、本当は自分本位の欺瞞なんじゃないか。そもそも心からそいつのことを思ってのことなのか……ってな」
紡ぎ出した言葉は止まらない。
いったい俺はなにをやっているんだろう。何も知らない秋海棠に、事情も説明しないまま好き勝手に言葉をまくし立てて。俺は自分自身の気持ちを見失っていた。
「俺は最低だ……本当に兄失格だよ」
最後に大きく息を吐き出すように、俺の言葉は途切れた。
きっと俺は秋海棠に慰めて欲しいのだろう。無様な俺を、最低な俺を、優しい彼女なら肯定してくれるんじゃないか。そんな確信めいた打算で、こうして電話をした。
それに気付いてしまって、また俺は自己嫌悪の感情に陥る。
「……分からないよ」
しかし、電話越しに聞こえた声は、どこか震えていた。
「秋海棠……?」
「ごめんなさい。定家君の言ってることが、私には分からないよ」
いつもと違って固く強張った声色に、俺は思わず動揺していた。
「誰にだって下心はあるよ。相手に好きになって欲しいから、仲良くなりたいから、大切だから、その人のために力になりたいって思うんじゃないかな。多分、誰だってそうだよ。それのどこがおかしいの? それって本当に、いけないことなの?」
静かに、しかし力強い調子で、秋海棠は言葉を続ける。
「定家君になにがあったのか、私には分からない……多分、今の定家君は悩んでるんだと思う。だから私に相談してくれたんだよね。頼ってもらえたことは嬉しいし、力になりたいとも思うよ」
この時になって俺はようやく気付いた。
秋海棠は今、怒っているのかもしれない。
そんな風に感じるのは、少なくとも彼女と出会ってから初めてのことだった。
「でも、これだけは言わせて欲しいんだ――定家君がカズラちゃんを大切に思ってる気持ちは、本当に偽物だと思うの?」
毅然とした調子で、秋海棠は問いかけてくる。
その問いに対して、俺は思わず息を飲んでしまった。
「少なくとも、私はそうだとは思わないよ。だって定家君、カズラちゃんの話をしてる時、すごく楽しそうなんだもん。あの顔を見て、きっと心から好きなんだって気持ちが伝わってきたから」
「秋海棠……」
「もし自分が信じられないんだったら、私のことを信じて欲しいな。私は自信を持って言えるよ? 定家君はカズラちゃんのことを世界で一番、大切に思ってる……ってね」
最後にいつものように柔和な声で、秋海棠はそう締めくくった。
そんな彼女の心からの言葉を聞いて、胸が温かい気持ちで満たされていくのが分かった。
「きっと……そんな定家君だから、私も――」
秋海棠は小さな声で、ポツリと呟くように言う。
「……ううん。私やナンちゃん、千鳥君やみんなも定家君のことが好きなんだと思う」
えへへ、とはにかむように笑って秋海棠は言葉を付け加える。
「ありがとう、秋海棠。何となくだけど、答えが出たような気がする」
「うん、そっか」
いつの間にか心に立ちこめていた暗雲は、綺麗に晴れていた。
どこか清々しい心地で、こんな気持ちにしてくれた秋海棠に感謝の言葉を述べる。
「本当に秋海棠には助けてもらったな。今度、埋め合わせはさせてくれ」
「え、いいよ。そんなに気を使わないで」
「いや、俺がお礼をしたいんだ。それじゃダメか?」
「えーっと、それじゃ……」
俺の提案に秋海棠は遠慮気味に答えるが、それでは俺の気が済まない。
少々強引に言葉を続けると、秋海棠は少し考えるように言葉を選ぶ。
「それじゃ――デートに連れてって欲しい……な」
「……え?」
「た、楽しみにしてるから……!」
秋海棠の口から〝デート〟という言葉が出ると、俺の心臓はドクンと高鳴る。
思わず呆けた声を漏らしたあと、その真意を尋ねようとするが、秋海棠は口早にそう告げると通話を切ってしまった。
暫く茫然とする俺だったが、不意に笑いがこみ上げてきて思わずにやけてしまう。
「まったく……カズラに知られたら、何て言われるか」
冗談交じりな言葉を口にすると、俺の心にはもう迷いはなかった。
自分の気持ちを再確認した俺は、先ほどよりも軽い足取りでカズラの部屋へと戻って行った。