◇欺瞞と本心
「……さて、どうするか」
一旦、カズラの部屋を出た俺は、廊下で立ちすくんでいた。
たった数時間の間に起きた出来事が目まぐるし過ぎて、考えが上手くまとまっていない。
「俺は……どうすればいいんだ?」
もう一度、今度は自問するように呟いた。
正直な話、俺は迷っていた。このままカズラを今回の件に関わらせるか否か。
カズラ自身は蒲公の頼みを受ける意思があるようだが、それを看過するのが本当に正しいのか?
たとえカズラや蒲公に何と思われても、止めるべきではないか?
そんな考えが脳内にグルグルと渦巻いていた。
「カズラがまた傷つくのが見たくないから?」
ふざけるな、そんな言い分はただの詭弁だ。
俺は今も怖いんだ。カズラが苦しんでいる様をただ見ていることしかできないのが。
以前のように自分の無力さを自覚してしまうのが恐ろしい。
だからカズラのためなんて大義名分を掲げて、上辺だけのきれい事並べて自分自身を騙そうとしている。
「メール、か」
そんな自己嫌悪めいた感情に苛まれていると、携帯のバイブレーターが震える。
ポケットから携帯を取り出すと、そこには一件の新着メールが通知されていた。
「送り主は……秋海棠か」
メールを開くとそこには、秋海棠から俺宛てに届いたメールの文章が表示される。
内容は今度、飛燕たちと出かける時の持ち物についてだった。
日常を象徴するようなメールを見て、ささくれ立っていた心が少し和らいでいくのが分かる。
「…………」
暫く返信もせずに画面を眺めていた俺は、なにを考えたのか電話帳から秋海棠の携帯番号を呼び出していた。そしてダイヤルの確認画面に進むと、通話のボタンを静かに押した。
『あ、ぇ――はひ、もしもしっ!?』
数度のコール音のあとに、スピーカーから秋海棠の声が聞こえてきた。
「あー、もしもし? 定家だけど……」
「う、うん。ど、どうしたの定家君? 電話してくるなんて、珍しいね」
いきなりの電話に少し申し訳ない気持ちになって、ばつが悪そうに言葉を放つ。
秋海棠はそんな俺に、少し慌てるように早口気味に問いかけた。
「そうだな。いきなり電話して悪かった」
「ううん、私は大丈夫。でもさっきのメールは特に急ぎの要件じゃないから、別に時間があるときでもいいよ?」
謝る俺に対して、秋海棠はやんわりと気兼ねないように答える。
秋海棠が言うように、俺から電話をかけることは滅多にない。
同じように秋海棠もそんなに電話をするタイプではないから、こうやって電話で話すのはもしかしたらかなり久しぶりなのかもしれない。
「実は、さ……電話したのは、そのことが理由じゃないんだ」
「えーっと……他になんかお話がある、ってこと?」
どこか要領を得ない調子で、俺は言葉を続けていた。
秋海棠はそんな俺の言葉を聞いて、どこか困惑するように尋ねる。
「まあ、そんな感じだな。秋海棠はさ、誰か好きなヤツとかいるか?」
「え? えぇぇぇ――ッ!?」
電話越しに秋海棠の素っ頓狂のような声が聞こえてくる。
「ど、どどど、どうしたのいきなり……?」
狼狽しながら真意を尋ねてくる秋海棠。
まあ、いきなりこんなこと聞かれたら、怪訝に思うのも当然だろう。
「俺にはいるんだ。それこそ世界で一番大切な、大好きなヤツが」
「それって……カズラちゃんのこと?」
静かに俺は言葉を続けた。
秋海棠はそこでなんかを察したらしく、確認するように問いかける。
「……さて、どうするか」
一旦、カズラの部屋を出た俺は、廊下で立ちすくんでいた。
たった数時間の間に起きた出来事が目まぐるし過ぎて、考えが上手くまとまっていない。
「俺は……どうすればいいんだ?」
もう一度、今度は自問するように呟いた。
正直な話、俺は迷っていた。このままカズラを今回の件に関わらせるか否か。
カズラ自身は蒲公の頼みを受ける意思があるようだが、それを看過するのが本当に正しいのか?
たとえカズラや蒲公に何と思われても、止めるべきではないか?
そんな考えが脳内にグルグルと渦巻いていた。
「カズラがまた傷つくのが見たくないから?」
ふざけるな、そんな言い分はただの詭弁だ。
俺は今も怖いんだ。カズラが苦しんでいる様をただ見ていることしかできないのが。
以前のように自分の無力さを自覚してしまうのが恐ろしい。
だからカズラのためなんて大義名分を掲げて、上辺だけのきれい事並べて自分自身を騙そうとしている。
「メール、か」
そんな自己嫌悪めいた感情に苛まれていると、携帯のバイブレーターが震える。
ポケットから携帯を取り出すと、そこには一件の新着メールが通知されていた。
「送り主は……秋海棠か」
メールを開くとそこには、秋海棠から俺宛てに届いたメールの文章が表示される。
内容は今度、飛燕たちと出かける時の持ち物についてだった。
日常を象徴するようなメールを見て、ささくれ立っていた心が少し和らいでいくのが分かる。
「…………」
暫く返信もせずに画面を眺めていた俺は、なにを考えたのか電話帳から秋海棠の携帯番号を呼び出していた。そしてダイヤルの確認画面に進むと、通話のボタンを静かに押した。
『あ、ぇ――はひ、もしもしっ!?』
数度のコール音のあとに、スピーカーから秋海棠の声が聞こえてきた。
「あー、もしもし? 定家だけど……」
「う、うん。ど、どうしたの定家君? 電話してくるなんて、珍しいね」
いきなりの電話に少し申し訳ない気持ちになって、ばつが悪そうに言葉を放つ。
秋海棠はそんな俺に、少し慌てるように早口気味に問いかけた。
「そうだな。いきなり電話して悪かった」
「ううん、私は大丈夫。でもさっきのメールは特に急ぎの要件じゃないから、別に時間があるときでもいいよ?」
謝る俺に対して、秋海棠はやんわりと気兼ねないように答える。
秋海棠が言うように、俺から電話をかけることは滅多にない。
同じように秋海棠もそんなに電話をするタイプではないから、こうやって電話で話すのはもしかしたらかなり久しぶりなのかもしれない。
「実は、さ……電話したのは、そのことが理由じゃないんだ」
「えーっと……他になんかお話がある、ってこと?」
どこか要領を得ない調子で、俺は言葉を続けていた。
秋海棠はそんな俺の言葉を聞いて、どこか困惑するように尋ねる。
「まあ、そんな感じだな。秋海棠はさ、誰か好きなヤツとかいるか?」
「え? えぇぇぇ――ッ!?」
電話越しに秋海棠の素っ頓狂のような声が聞こえてくる。
「ど、どどど、どうしたのいきなり……?」
狼狽しながら真意を尋ねてくる秋海棠。
まあ、いきなりこんなこと聞かれたら、怪訝に思うのも当然だろう。
「俺にはいるんだ。それこそ世界で一番大切な、大好きなヤツが」
「それって……カズラちゃんのこと?」
静かに俺は言葉を続けた。
秋海棠はそこでなんかを察したらしく、確認するように問いかける。