◇対話の代償
カズラと蒲公の話が終わったあと、俺は蒲公から今後のために連絡先を交換した。
それが終わると蒲公を玄関まで見送って、急いで二階へ駆け上がって行く。
「カズラ!」
カズラの部屋まで辿り着くと、ノックをすることさえ忘れてドアを開いた。
蒲公が来てからカズラの体調が悪化していたのは明らかで、会話中にはどうにか保ったが無茶をしているのが俺にも分かっていた。
「カズラ……? いないのか……?」
部屋の中を見渡してもカズラの姿はなかった。布団の中まで見てみたが、やはりいない。
「もしかして――」
一つの可能性に思い至ると、早足でカズラの部屋から出て行く。
「カズラ……!?」
部屋から出ると二階に備え付けられているトイレへと向かう。
ドアが開け放たれたトイレの前、カズラは廊下にへたり込んでいた。
「おい、カズラ! 大丈夫か!?」
即座にうなだれているカズラへ走り寄ると、しゃがみ込んで必死に声をかける。
「あ……お、兄ちゃん……」
俺の声に気付いたのか、カズラは緩慢な動作でこちらを見上げる。
その顔色は青白くますます悪くなっていて、力ない笑みを浮かべていた。
「ちょっと気持ち悪くなっちゃって、吐いちゃった……」
「……そうか。頑張ったんだな、偉いぞ」
どこか必死に笑顔を作るように苦笑するカズラを見て、俺はそっと背中をさする。
きっと蒲公との会話中も無理を通して、その反動が今になって出てしまったのだろう。
「……ねえ、お兄ちゃん。知ってる?」
「なにがだ?」
「ゲロインの登場するアニメやラノベは、名作って言う法則」
「……ゲロイン、ってなんだよ」
「ゲロを吐くヒロインのことだよ」
「お前……女の子がゲロとか言うなって」
「つまりこの法則を適応すれば、この作品は既に名作ってことなんじゃないかな?」
「メタ発言は止めろ」
ポツリと漏らしたカズラの言葉に、俺は思わず苦笑を浮かべてツッコミを入れる。
カズラもどうやら冗談が言える程度には回復したらしく、そうやって俺に気を使わせないように軽口を叩いてくれている。その心遣いには素直に甘えようと思う。
「ほら、乗れよ? まだ歩くには辛いだろ」
「……うん。ありがとう、お兄ちゃん」
へたり込むカズラの前に、背中を差し出して背負って部屋まで送る意思を伝える。
前を向いているので表情は見えないが、しばらくしてカズラは素直に俺の首に手を回して体重を預けてくる。
「じゃあ、行くぞ」
太ももに手を回し立ち上がると、俺はカズラを背負って歩き始める。
「何だか、子供の頃みたいだね」
耳元でカズラが囁いてくる。
言葉と一緒に吐き出された吐息は、確かな熱を帯びて首筋を撫でてきた。
「そうだな。昔はこうやって、よくおんぶしてたっけ」
少女特有の甘い香りと、僅かばかり汗の臭い。
そして柔らかな身体の感触を背中全体で感じながら、俺はカズラの言葉に答えた。
「よし、降ろすぞ。大丈夫か?」
部屋に着くとベッドまで近づいて、カズラが降りられるように腰を落とす。
「……うん。ありがとう、お兄ちゃん」
ゆっくりとベッドの上に座ると、カズラはか細い声で感謝の言葉を述べた。
「今日はゆっくり休め。流石に疲れただろ?」
「……はは、そうだね」
背中に手を添えてカズラをベッドに寝かすと、優しく声をかける。
そんな俺を見てカズラは、どこか申し訳なさそうに苦笑していた。
「なにか欲しい物はあるか? 家になきゃ、今から買ってくるぞ」
それを見届けると、立ち上がってカズラに問いかける。
こう言う調子の悪いときは、やはり定番だがスポーツドリンクだろうか?
体調不良の原因が精神的なものなので、それが正しいか分からないが。
とにかくないよりはマシ、と判断した俺はカズラが今欲しいものを尋ねてみる。
「あっ――」
余程疲れていたのか、いつの間にかカズラは寝入ってしまった。
安らかな妹の寝顔を見て俺は、安堵するように声を漏らすのだった。
「おやすみ、カズラ」
カズラと蒲公の話が終わったあと、俺は蒲公から今後のために連絡先を交換した。
それが終わると蒲公を玄関まで見送って、急いで二階へ駆け上がって行く。
「カズラ!」
カズラの部屋まで辿り着くと、ノックをすることさえ忘れてドアを開いた。
蒲公が来てからカズラの体調が悪化していたのは明らかで、会話中にはどうにか保ったが無茶をしているのが俺にも分かっていた。
「カズラ……? いないのか……?」
部屋の中を見渡してもカズラの姿はなかった。布団の中まで見てみたが、やはりいない。
「もしかして――」
一つの可能性に思い至ると、早足でカズラの部屋から出て行く。
「カズラ……!?」
部屋から出ると二階に備え付けられているトイレへと向かう。
ドアが開け放たれたトイレの前、カズラは廊下にへたり込んでいた。
「おい、カズラ! 大丈夫か!?」
即座にうなだれているカズラへ走り寄ると、しゃがみ込んで必死に声をかける。
「あ……お、兄ちゃん……」
俺の声に気付いたのか、カズラは緩慢な動作でこちらを見上げる。
その顔色は青白くますます悪くなっていて、力ない笑みを浮かべていた。
「ちょっと気持ち悪くなっちゃって、吐いちゃった……」
「……そうか。頑張ったんだな、偉いぞ」
どこか必死に笑顔を作るように苦笑するカズラを見て、俺はそっと背中をさする。
きっと蒲公との会話中も無理を通して、その反動が今になって出てしまったのだろう。
「……ねえ、お兄ちゃん。知ってる?」
「なにがだ?」
「ゲロインの登場するアニメやラノベは、名作って言う法則」
「……ゲロイン、ってなんだよ」
「ゲロを吐くヒロインのことだよ」
「お前……女の子がゲロとか言うなって」
「つまりこの法則を適応すれば、この作品は既に名作ってことなんじゃないかな?」
「メタ発言は止めろ」
ポツリと漏らしたカズラの言葉に、俺は思わず苦笑を浮かべてツッコミを入れる。
カズラもどうやら冗談が言える程度には回復したらしく、そうやって俺に気を使わせないように軽口を叩いてくれている。その心遣いには素直に甘えようと思う。
「ほら、乗れよ? まだ歩くには辛いだろ」
「……うん。ありがとう、お兄ちゃん」
へたり込むカズラの前に、背中を差し出して背負って部屋まで送る意思を伝える。
前を向いているので表情は見えないが、しばらくしてカズラは素直に俺の首に手を回して体重を預けてくる。
「じゃあ、行くぞ」
太ももに手を回し立ち上がると、俺はカズラを背負って歩き始める。
「何だか、子供の頃みたいだね」
耳元でカズラが囁いてくる。
言葉と一緒に吐き出された吐息は、確かな熱を帯びて首筋を撫でてきた。
「そうだな。昔はこうやって、よくおんぶしてたっけ」
少女特有の甘い香りと、僅かばかり汗の臭い。
そして柔らかな身体の感触を背中全体で感じながら、俺はカズラの言葉に答えた。
「よし、降ろすぞ。大丈夫か?」
部屋に着くとベッドまで近づいて、カズラが降りられるように腰を落とす。
「……うん。ありがとう、お兄ちゃん」
ゆっくりとベッドの上に座ると、カズラはか細い声で感謝の言葉を述べた。
「今日はゆっくり休め。流石に疲れただろ?」
「……はは、そうだね」
背中に手を添えてカズラをベッドに寝かすと、優しく声をかける。
そんな俺を見てカズラは、どこか申し訳なさそうに苦笑していた。
「なにか欲しい物はあるか? 家になきゃ、今から買ってくるぞ」
それを見届けると、立ち上がってカズラに問いかける。
こう言う調子の悪いときは、やはり定番だがスポーツドリンクだろうか?
体調不良の原因が精神的なものなので、それが正しいか分からないが。
とにかくないよりはマシ、と判断した俺はカズラが今欲しいものを尋ねてみる。
「あっ――」
余程疲れていたのか、いつの間にかカズラは寝入ってしまった。
安らかな妹の寝顔を見て俺は、安堵するように声を漏らすのだった。
「おやすみ、カズラ」