ポツリ、と蒲公は言葉を漏らす。
 そしてまるで異形の怪物でも目の当たりにしたかのように、ぎこちない首の動きでモニターに映るカズラを見る。
「アタシを含めて、紫陽、香、雫。これって定家をイジメてたメンバーだよね……?」
「――は……今、何て?」
 ようやく吐き出した蒲公の言葉を聞いた瞬間、頭の中が真っ白になった。
 ――こいつはいったい、なにを言ってるんだ?
「お願い定家! 謝るから許してよぉ……!! 全部、アンタがやったんでしょ? アタシたちを恨んでるから、復讐したんでしょ!?」
 深々と頭を下げて、額をテーブルへと押しつける蒲公。
 俺には蒲公がなにを言っているのかよく分からない。頭の中が真っ白になった。
『お兄ちゃん、落ち着いて』
 混乱のあまり前後不覚に陥りそうになっていたところへ、不意に声が聞こえてくる。
『なんだか、怖い顔してるよ?』
「あ、ああ……悪い」
 脳内に鳴り響いていたノイズをかき消すように、カズラの声は俺の耳に届いてくる。
 すると先程まで暴力的な衝動に充ちていた感情の波が引いて、心が穏やかに凪いでいくのが分かる。妹の前で失態を演じてしまったことを恥じて、俺はカズラに謝罪する。
『蒲公さんは勘違いしてる。わたしはその件には関わってないし、今さっき初めて知ったくらいだよ』
「え……だって――」
『ごめんなさい。本当に知らないの』
 カズラは頭を下げている蒲公を見て、申し訳なさそうに答えた。
 蒲公はカズラに見捨てられたかのように、絶望的な表情を浮かべる。
『……でも調べてはみる。蒲公さんの話が本当ならわたしにも関係があるかもしれないし』
「ほ、本当……ッ!?」
 続けられた言葉を聞いた瞬間、蒲公は勢いよく顔を上げて縋るようにカズラを見上げる。
『その代わりに、知ってることは教えてね。多分、協力も頼むと思うし』
「うん、分かったよ……ありがとう……本当に、ありがとう――」
 まるで神様でも拝むように、ひたすら平伏する蒲公の姿を俺はただ見ていることしかできなかった。