カズラも出て行けとは言わなかったので、どうやら俺の同席は許されたらしい。
「そう、ですか……」
 蒲公は何も言わないカズラと見て、諦めたように頭を垂らした。
 そして渋々と言ったように、ようやく本題を切り出す。
「あの、さ……紫陽、って覚えてる? 篝火紫陽(かがりびしよう)」
『……うん、覚えてる。同じクラスだったから』
 怖ず怖ずと切り出したクラスメイトの名前に、カズラは一瞬だが身体を震わせる。
 まるで篝火紫陽と言う生徒が、カズラにとってなにか強い影響を与えているような――
 漠然とした感覚だが、そんな風に思ってしまった。
「その紫陽がさ……今、停学食らってんの」
『停学?』
 蒲公の口から〝停学〟と言う言葉が出ると、カズラは怪訝そうに眉を吊り上げる。
 確かに停学と聞いては、これから出てくる話があまり穏便なものだとは思えなかった。
「まあ理由は、ちょっと前に仲間内で集まったことがあってさ。その時にハメ外してお酒、飲んじゃったんだよね。それが学校側にバレちゃってさ」
 気まずそうに話を続ける蒲公。
 日本において、二十歳未満の飲酒は許可されていない。犯罪こそはならないが、そんなことが学校に知られれば停学と言う処分は妥当な処置だろう。
「……なんでバレたかって言うと、その時の写真がShabetterにアップされてて、それが生活指導の麒麟児(きりんじ)に見つかったらしくてさ」
 身内の恥を口にして、気まずそうな顔をする蒲公。
 Shabetterとは、百四十文字以内の短文と写真や動画を投稿できるSNSだ。
 SNS全般は多くの人間がHN(ハンドルネーム)と呼ばれるネット上での名前を名乗るが、法律に抵触したり、倫理的に間違った行為をネット上に投稿してしまった際には個人情報を特定されてしまう恐れがある。
 今さっき蒲公が言ったように、未成年が飲酒したと喧伝しているような投稿は、一度明るみに出てしまえば、日本中の人間から批判されることもある。
 そうなれば本名や学校などを特定され、然るべき処置を受けることになる。これが俗に言う〝炎上〟と呼ばれる現象だ。
「でもさ、おかしいんだ。紫陽はさ、ネットに写真は上げてないって言っての」
『……それはどういう意味?』
「そのままの意味だって! 紫陽は写真は確かに撮ったけど、それを投稿なんてしてないって言ってんのよ」