その身体はがたがたと震えていて、目の焦点は既に俺を見ていない。
「あ、お兄ちゃん……ご、めんなさい……わた、し……」
 声が届いたのか、カズラは徐々に冷静さを取り戻していった。
 そして申し訳なさそうな声で、謝罪の言葉を口にする。
「いや……悪いのは俺だ。お前の気持ちも考えないで軽率だった」
 胸に顔を埋めてくるカズラを抱きしめると、自らの迂闊さを呪いながら謝った。
 イジメの件に関しては、カズラもまだ完全に吹っ切れてはいなかった。
 以前より元気になったのも、引きこもることによって現実から目を逸らしていただけだ。
 根本的な問題は、何一つとして解決していない。俺はそれを軽んじていた。
 もしかしたらなんて希望的観測に甘えて、カズラの古傷を抉ってしまったのだ。
「ううん……お兄ちゃんは悪くないよ」
 俺の胸の中で、カズラは小さく声を漏らした。
 その弱々しい響きは、風が吹けば消えてしまいそうな程にか細かった。
「蒲公には俺から説明して帰ってもらうから、カズラは何にも心配しなくていい」
 そんなカズラを安心させたくて、優しくあやすように声をかける。
 蒲公には悪いと思うが、こんな状態のカズラを合わせるわけにはいかない。
「……理由だけ」
「……え?」
「蒲公さんに、わたしに何の用か。それだけは……知りたいの」
 ぽつり、と漏らした呟きを聞いて、思わず聞き返してしまった。
 カズラは蒲公がどうして訪れたのか、それが知りたいと言う。
「でも直接、会うのは難しいかも……だから、これで話す」
 カズラは俺から離れるとふらふらとした覚束ない所作で、押し入れからノートパソコンを取り出した。そして机の上にあるウェブカメラと一緒にそれを俺に渡す。
「お兄ちゃん、設定とかお願いできる?」
 ウェブカメラはインターネット回線を通して撮影した動画を見ることができるもので、言ってしまえばリアルタイムでの中継をすることができる。
 これらを客間まで持って行き子機をノートパソコンと接続すれば、直接会わなくてもカズラは部屋に居ながら蒲公と会話を交わすことができる。
「分かった」
 その提案を理解すると、渡されたノートパソコンとカメラを持って部屋を出て行く。
 カズラがそれを望むなら俺はそれに応えよう。それが俺にできる唯一の罪滅ぼしだから。
「でも体調が悪くなったら、無理はするなよ?」