「あの……もしかして、お兄さんですか?」
「ん? ああ、自己紹介がまだだった。俺は定家牽牛。カズラの兄です」
「牽牛さんって、歳はいくつなんですか?」
「十七歳……と言っても遅生まれだから、今は高三だよ」
「それじゃ、アタシたちよりも一歳年上なんですね」
廊下を歩きながら雑談を交わしていると、やがて客間へと辿り着いた。
蒲公を来客用のソファーに座らせると、台所に行ってお茶の用意をする。
「ちょっとカズラに話してみるから、ここで待っててくれるかな」
「あ、はい。分かりました」
来客用に紅茶を淹れてから断りを入れて、俺はカズラの部屋へと向かって行った。
「カズラ、入るぞ」
「ういー、おはよーお兄ちゃん」
二階に上がって部屋に入ると、カズラはアニメを見ながら気怠そうに挨拶をする。
「カズラ、実はな……」
いざカズラと目の前にすると、つい言い淀んで言葉を飲み込んでしまった。
蒲公を家に上げたまではいいが、正直に言ってしまえば俺はまだ悩んでいた。
このまま、カズラに真実を告げるべきか否か。
今まで顔も見せなかったクラスメイトにカズラはなにを思うのか。
もしかしたらいたずらに、心の傷を抉ってしまうだけではないのだろうか。
蒲公には悪いがこのまま大人しく帰ってもらって、何事もなくやり過ごすのが一番ではないのか。そんな思惑や思考が頭の中でぐるぐると巡っていて、この瞬間までどうすべきか分からなかった。
「お前のクラスの子、確か名前は蒲公って言ったな。今、来てるんだ」
さんざん迷った挙げ句、俺は正直に事実を告げることにした。
もしかしたらこれが、転機になるかもしれない。
今の状況を変えるきっかけになるかもしれない。そんな淡い期待に縋ってしまったのだ。
「え……う、そ――」
しかしそんな浅はかな考えは結局、俺の思い違いだと分かってしまう。
カズラは俺の口から蒲公の名前を聞いた瞬間、目を見開いて声を漏らす。
まるで信じられないと言うように、その表情は驚愕の色で支配されていた。
「どう、して……なんで……」
血の気の引いた土気色の顔で、カズラは譫言のように呟いた。
まるで見えないなにか――ここにはいない誰かを見ているようで。
異変に気付いた俺は、慌ててカズラに駆け寄る。
「カズラ、大丈夫か!?」
両肩に手を置いて、必死にカズラへと呼びかける。
「ん? ああ、自己紹介がまだだった。俺は定家牽牛。カズラの兄です」
「牽牛さんって、歳はいくつなんですか?」
「十七歳……と言っても遅生まれだから、今は高三だよ」
「それじゃ、アタシたちよりも一歳年上なんですね」
廊下を歩きながら雑談を交わしていると、やがて客間へと辿り着いた。
蒲公を来客用のソファーに座らせると、台所に行ってお茶の用意をする。
「ちょっとカズラに話してみるから、ここで待っててくれるかな」
「あ、はい。分かりました」
来客用に紅茶を淹れてから断りを入れて、俺はカズラの部屋へと向かって行った。
「カズラ、入るぞ」
「ういー、おはよーお兄ちゃん」
二階に上がって部屋に入ると、カズラはアニメを見ながら気怠そうに挨拶をする。
「カズラ、実はな……」
いざカズラと目の前にすると、つい言い淀んで言葉を飲み込んでしまった。
蒲公を家に上げたまではいいが、正直に言ってしまえば俺はまだ悩んでいた。
このまま、カズラに真実を告げるべきか否か。
今まで顔も見せなかったクラスメイトにカズラはなにを思うのか。
もしかしたらいたずらに、心の傷を抉ってしまうだけではないのだろうか。
蒲公には悪いがこのまま大人しく帰ってもらって、何事もなくやり過ごすのが一番ではないのか。そんな思惑や思考が頭の中でぐるぐると巡っていて、この瞬間までどうすべきか分からなかった。
「お前のクラスの子、確か名前は蒲公って言ったな。今、来てるんだ」
さんざん迷った挙げ句、俺は正直に事実を告げることにした。
もしかしたらこれが、転機になるかもしれない。
今の状況を変えるきっかけになるかもしれない。そんな淡い期待に縋ってしまったのだ。
「え……う、そ――」
しかしそんな浅はかな考えは結局、俺の思い違いだと分かってしまう。
カズラは俺の口から蒲公の名前を聞いた瞬間、目を見開いて声を漏らす。
まるで信じられないと言うように、その表情は驚愕の色で支配されていた。
「どう、して……なんで……」
血の気の引いた土気色の顔で、カズラは譫言のように呟いた。
まるで見えないなにか――ここにはいない誰かを見ているようで。
異変に気付いた俺は、慌ててカズラに駆け寄る。
「カズラ、大丈夫か!?」
両肩に手を置いて、必死にカズラへと呼びかける。