「いや、それでは私の気が済まんのだ。あとで食事でも奢らせてくれ」
「まあ、そういうことなら学食でご馳走してもらいましょうか」
 食い下がる金木に、柊は冗談っぽく笑いながら答える。
 確かに学食ならばそこまでは掛からないし、いい折衷案かもしれない。
 金木はどうやら誠実な人間らしく、そう言ってしまえば向こうも気負わなくて済むと言う柊なりの気遣いでもあった。
「飛燕に関しては、約束の〝アレ〟は任せておけ」
「ちょ……! 金木、それはあとで――」
 何気なく続けられた言葉だがそれを聞いた瞬間、飛燕の表情が青ざめる。
「なんだ? 今回の報酬の話だろ? ふふ、安心しろ。予想以上の成果が上がったんだ、金子(きんす)にはのしを付けて渡そう」
「あ、いや……そういう意味じゃなくて、ですね……」
 慌てて言葉を遮ろうとするが、時既に遅し。金木は小首を傾げながら言葉を続けていた。
「ほぉ……」
「へー……」
「ふぅん……」
 その会話で全てを悟ってしまった俺たちは、白い目をしながら一斉に飛燕を見る。
「ん? 皆にはまだ言ってなかったのか? 今回の件に協力してもらう代わりに、バイト代を出すと言う話だったろう?」
「えーと……うん、そうなんだけどさ……」
 てっきり飛燕から話が合ったと思っていたのか、金木は不思議そうに問いかける。
 飛燕は引きつった笑みを浮かべながら曖昧に答えると、ギギギと壊れたゼンマイ仕掛けのおもちゃを彷彿とさせる動きでこちらを振り返った。
「いやー、全然知らなかったなぁ」
「そうねー、まったく、全然、み・じ・ん・も、知らなかったわー」
 不気味な程ににこやかな笑顔で、俺と柊は空々しく笑い合う。
「これは臨時収入、ってことでパーッと行くフラグだよな?」
「そうね。そういや最近、この時間でもやってる焼肉屋が駅前にオープンしたんだってー」
「あ、あの……お二人さん?」
「いやー、疲れた時には肉だよなぁ」
「そうねー。何だか無性に上カルビとかユッケジャンが食べたい気分ね~」
「俺は上タン塩な。それと骨付カルビが食いたい」
「その……焼き肉は、その……ご勘弁を……」
 頷き合いながら話を進める俺たちを見て、飛燕は目を逸らしながらボソボソと話かける。
「大丈夫、大丈夫。臨時収入が入ったんだろ?」