腕組みをして唸る金木は、傍らの飛燕へと視線を送る。
　飛燕は鷹揚に笑って答えると、親指を立ててサムズアップした。
「んでもって、せっかくだからみんなで肝試しをしようと思ったのよ」
「なるほどな。飛燕からしてみれば、金木の頼み事も果たせて一石二鳥ってわけか」
　金木と飛燕に交友があったのは知らなかったが、言われて納得する。
　こいつは各方面に色々と顔が広いし、頼られれば応えてしまうお人好しでもある。
「ほら、前にも話したけど……俺たち全員が揃う夏って多分、今年が最後じゃん？　だから、なんつーかな。思い出……そう、思いで作りになればいいって思ったんだ」
「飛燕……」
「千鳥……」
「千鳥君……」
　へへっ、とはにかむように小さく笑う飛燕。
　俺たちはそれを見て、しんみりとした雰囲気になりながら声を漏らす。
「まっ、結局予定通りには、いかなかったんだけどな。なにかこっちの都合に付き合わせちゃって、みんなゴメンな」
「謝るなよ、飛燕。なんだかんだで、終わってみれば良い思い出じゃねか」
「……そうね。どうせどさくさに紛れて、なにか良からぬことを企んでるとか思っててごめんなさいね。あたし、あんたのこと誤解してたみたい」
「うん。私も千鳥君の気持ち、嬉しいよ」
　自嘲するように苦笑している飛燕を見て、俺は首を横に振ってその言葉を否定する。
　確かに俺の預かり知れぬところで、様々な思惑が交差していたが、結局終わってみれば良い体験になったと思う。
　学校で肝試し、なんて貴重な経験は学生時代にしかできないのだから。だからこそ、大人になったときに思い出してみれば、きっとこれは良い思い出だと言えるのかもしれない。
　そんな場を強引にでも設けてくれた飛燕には感謝しているし、それはどうやら他の二人も一緒のようだった。
「……みんな！」
　そんな俺たちの温かい微笑みを見て、飛燕は感極まって涙ぐんでしまう。
　今日は色々とあったが、決して無駄足ではなかった。少なくとも今はそう思う。
「皆も私の実験に付き合わせて、済まなかったな。おかげで問題点の洗い出しもできた」
「いや、気にすんなって。なんだかんだで、俺らも楽しんでたしな」
　一件落着、と話が収束していく中、金木が締めくくるように頭を下げた。
　改まって礼を述べられると、慌てて手を振って気にしないでくれと伝える。