そうすればこちらから会話に応じることはできないが、カズラの声は聞くことができる。
 こちらの状況も俺と飛燕の会話を通して伝わるだろうし、自分以外の誰にも気付かれることなく、カズラからの指示を仰ぐこともできる。
『となれば早速、作戦開始だね!』
「……だな。あんまり長居してると飛燕に怪しまれるし、そろそろ戻ろう」
 そして俺はトイレを出て、飛燕と合流したのだった。
 表向きには通話を切ったフリをして、裏ではカズラの指示を聞きながら音楽室に向かって行った。怪談にも冷静に対応できたのも、それが理由だった。
 そしてカズラの見立て通り、飛燕はついに尻尾を現したのだった。

◇怪談の案内人と仕掛け人
「……参ったな」
 携帯のスピーカーをONにしてカズラの推理を一通り聞かせると、飛燕は苦笑混じりに呟きを漏らした。その表情には、どこか諦念が感じ取れる。
『ピアノの蓋がタイミング良く閉まったのも、飛燕さんがやったんですよね? 入り口付近に括り付けていたテグスを引っ張って、ガムテープの固定を剥がした』
「言い訳じゃないんだけど、ちゃんと牽牛が怪我しないタイミングでやったんだぜ?」
 カズラの言葉に飛燕は、補足するように答える。
 やれやれと肩を竦めて言った台詞は、自らが犯人だと自供しているようだ。
「カズラちゃんの言うとおり、オレが今回の肝試しの先導役だったんだ」
 カズラの推理が正しかったことを肯定するかのように、飛燕は言葉を続ける。
「いやー結構、苦労したんだぜ? みんなに気付かれないように、立ち回るのはさ」
 もう隠すつもりもないのか、飛燕は溜め息混じりにぼやいた。
「ぶっちゃけ、カズラちゃんが参加するって聞いた時、ヤバいなとは思ってたんだけどね」
「だからお前、あんなに乗り気じゃなかったのか」
 カズラも肝試しに参加できるように頼みこんだ際、飛燕だけは難色を示していた。
 飛燕の性格ならば快諾してくれると思っていたが、意外な反応に違和感のようなものは感じていた。しかし、その違和感の正体はこれだったのか。
「だって、『路地裏の亡霊』の事件も解決しちゃうような天才だろ? こんな肝試しくらいじゃ、騙し通せねぇなとは思ってたんだよ……」