◇定家葛・改

「うっひょー! このパンツのシワにまで拘った造型、堪りませんぞ……」

 フィギュアをローアングルから覗き込んでいたカズラは、職人が己の作品の出来映えをじっくりと確認するように重苦しく呟きを漏らした。

 そして満面の笑みで、ガッツポーズを取る。

 どう見ても小学校低学年くらいの年齢にしか見えないキャラの下着を見て、お前はいったい何がそんなに嬉しいのだと問い詰めたいが、面倒なので止めておこう。
 地雷を踏めば、延々と萌え語りを聞かせられかねない。

 しかしオタク文化に触れて、カズラは以前より強くなったと思う。

 いや正確に言えば、ネットの世界に関わるようになってから……か。

 ネットの世界には様々な人間がいる。
 小学校に通っている子供から、老年と呼べるような大人まで、ありとあらゆる年代の人間がそこに存在していると言ってもいい。

 職業も様々で、サラリーマンからオペレーター、デザイナーやプログラマー、派遣社員やニートまで、それこそどんな人間でもいると言っていいだろう。

 中にはカズラよりも壮絶な人生を歩んでいる人間もたくさんいて、そういった人間とのふれ合いがトラウマの緩和に繋がっているのだと思う。
 それはあくまでも一時的なもので事実、今でも妹は学校に登校することおろか家から出ることができていない。

 ただこうやって、以前のように話をすることもできるようになったし、何よりも今のカズラは生き生きとしている。
 そんな妹の姿を見ていると、どこか安心してしまうのだ。

 確かにカズラは世間的に見れば、部屋にひきこもって登校を拒否している社会生活不適合者なのかもしれない。

 しかし今の妹は、とても楽しそうに生きている。

 ほんの数ヶ月前までは死んだように日々を過ごしていたことを考えると、今の方が俺にしてみれば何倍もマシだ。
 
 学校なんかに通っていなくても、本人が幸せならそれでいい。
 幸せの形は人それぞれだと思う。

「チッ……流石にキャストオフは無理か。
ひんぬーがどうなってるか楽しみだったのにぃ」

 フィギュアの衣類を脱がそうと躍起になっていたがどうやら諦めたらしく、残念そうに呟きを漏らしているカズラを見て、俺は真顔になりながら自分に言い聞かす。

 ――そう、これでいいのだと。