その問いに頷くと、秋海棠が驚いたように声を漏らした。
「暗くてよく見えないけど……それは?」
「これか? これはな、ミュージックプレイヤーだ」
「まあミュージックプレイヤーなんて珍しくもないけど、それがどうしたの?」
 俺に手の上には、一つのミュージックプレイヤーが乗っていた。
 ミュージックプレイヤー。音楽プレイヤーと言った方が分かりやすいか。
 これはMP3などの形式で楽曲データを内蔵メモリへと取り込み、どこでも音楽が聴けるようにするための機械だ。
「誰かの忘れ物じゃないの?」
「そうかもな。でも、これが笑い声の正体だ」
「ミュージックプレイヤーが、声の正体……?」
 それがどうした、と言わんばかりの柊に淡々と推理を述べる。
 秋海棠はそれを聞いて、不思議そうに首を傾げる。
「普通のミュージックプレイヤーは、イヤホン端子になにかを差し込まない限り音が流れない。でもさっき確認したらこれは、スピーカーが内蔵されているタイプみたいだ。つまり、イヤホンを差し込まなくても音が出るみたいだ」
「まあ、そういうタイプもあるんでしょ。でも、それがどうしたの?」
 このミュージックプレイヤーについて解説するが、柊はなにが言いたいのか分からないらしく怪訝そうに問いかける。
「それで、だ。今このミュージックプレイヤーは、再生状態になっている。つまり、音楽が流れていることになる」
「えっと……定家君、それは本当なの? だって音なんて、聞こえてこないよ」
 秋海棠が言うように、このミュージックプレイヤーから音は聞こえてこない。
 しかしメニュー画面を確認すると、確かに再生中のマークが表示されている。
 これは一見、矛盾しているように見えるかもしれない。
「いや、いいんだよ。だって今、再生している音楽のデータは〝無音〟なんだから」
「無音……? 確かにそれなら再生されてても、音が聞こえないのには納得できるけど」
 音楽データが初めから無音のデータならば、再生しても音は流れない。
 説明を聞いて秋海棠は納得するが、しかしそれでも躊躇うように言葉を飲み込む。
「――なんでそんなものを入れているか、だろ?」
「……うん。それがちょっと、分からなくて」
「そうよ。せっかくの音楽を聴くための機械なのに、無音のデータ入れて意味あるの?」
 秋海棠の疑問を先回りするように、言葉を続けてみせる。