我先にと入り口のドアに手を掛ける飛燕。
 その手を掴むと、言い聞かせるように声を掛ける。
「いや、無理無理無理! 早く逃げようって!!」
「だから落ち着け、って」
 手を振り払って逃げようとする飛燕に、諭すような口調で言葉を続ける。
「柊も秋海棠も落ち着け、大丈夫だからな」
 それと同時に床にへたり込んでいる秋海棠と、それを支えていた柊にも声を掛ける。
「で、でも、定家君……」
「ケンゴっち、もしかしてなにか考えがあるの?」
「まあな。と言っても、俺じゃなくてカズラが……だけどな」
 依然として教室内には、ケタケタとした笑い声が響いている。
 しかしそれでもなお、落ち着いている俺の様子に秋海棠と柊は疑問を覚えたのか、不思議そうに首を傾げている。
「いいかみんな? 今から手分けして、教室の机の中を調べてくれ」
「机の中?」
「それって、どういう……」
 みんなの視線がこちらに集まると、先程カズラから受けた指示を一同に告げる。
 その意味が分からないのか、柊や秋海棠は怪訝そうな表情だった。
「あ――止んだ……」
 そんなやり取りをしていると、響いていた笑い声は突然聞こえなくなってしまった。
「……分かった。それじゃ私と椿は、後ろから調べる。椿、大丈夫?」
「うん……私は大丈夫。ありがとね、ナンちゃん」
 再び静寂が教室を支配すると、柊は静かに答えた。
 そして床にへたり込む秋海棠に手を差し伸べ立ち上がらせると、二人は教室の後方から机の引き出しを調べ始める。
「飛燕、俺たちは前からだ」
「お、おう……」
 それを見届けると俺は掴んでいた飛燕の手を離し、教室の前方へと移動する。
 飛燕はどこか躊躇いがちに、その後をついてくる。
「あんまり良い趣味じゃねぇな……」
「我慢しろ。なるべく引き出しの中は、荒らさないようにはするよ」
 不満そうにぼやく飛燕を横目に、引き出しの中を次々と確認する。
「――よし、あった」
『お兄ちゃん、見つかった?』
「ああ、ビンゴだ」
 暫く探していると、目的の物がついに見つかった。
 それを聞いたカズラが確認するように尋ね、俺はそれに頷く。
「ケンゴっち、なにか見つかったの?」
「おう。多分、これが幽霊の〝正体〟だ」
「え……本当?」
 同じく机の中を調べていた柊は、俺の言葉を聞くとなにか進展があったのか尋ねてくる。