――わけではないが、馬鹿な話をしていると気持ちは徐々に平静さを取り戻していく。
『お兄ちゃん、もう大丈夫?』
「ああ、なんとかな」
 そんな俺を見越してかこちらの様子を伺ってくるカズラに、深呼吸を一してから答える。
『じゃあ、落ち着いたところで……もう一回、肖像画を見てみて?』
「もう一回……?」
『うん。今度は〝じっくり〟、とね』
 カズラの言葉に首を傾げていると、横合いから声を掛けられた。
「なあ、みんな! 早く逃げようぜ!!」
 他のメンバーはまだ混乱しているのか、飛燕は慌てふためきながら逃げようと提案する。
「いや、ちょっと待て」
「待てねぇよ! 噂は本当だったんだ!!」
 興奮気味に喚き立てる飛燕を横目に、俺は床に落ちていた懐中電灯を拾う。
「た、確かにまだここにいるのは、ちょっと……」
「あれ、ケンゴっち……どうしたのさ?」
 まともに取り合わない俺に、飛燕は更に強くこの場の離脱を提案する。
 秋海棠はそれにこくこくと頷いたが柊は、俺の行動を見て不思議そうに首を傾げる。
「ウチの探偵様のご命令だ」
 ゴクリと固唾を飲んで、再び右端の肖像画を懐中電灯で照らす。
「うわっ! なんやってんだよ、牽牛!?」
「…………」
 俺の行動に飛燕はぎょっとした表情で、信じられないと悲鳴を上げる。
 しかしそれを無視して、肖像画を凝視する。
「定家君……?」
 秋海棠は俺の方を不思議そうに眺めている。
 先程までの動揺も、いくらかはマシになったらしい。
「…………」
 再び肖像画を見ると、やはりその目は不気味に光っている。
 背筋には悪寒が走り心拍数は急上昇するが、必死に恐怖をかみ殺して観察に専念する。
 今すぐにでも逃げ出したいがカズラの言葉を信じ、目を凝らし発光する部分を見据える。
『どう? なにか分かった?』
「この光り方。どこかで見たような……」
 観察を続けているとその発光について、どことなく心当たりがあるような気がしてきた。
 携帯電話と懐中電灯を掲げながら、更に肖像画へと近づいて行く。
「……鏡、か?」
『多分、アルミ箔のメタリックシールとかじゃないかな? ほら、台所とかで使う』
 近づいて肖像画をよく見てみると、目の形に切り抜かれた金属製のシールが貼ってある。
『話を聞いた時は画鋲かな、とは思ったんだけどねー。随分とまあ、手が凝ってることで』
「確かにこっちの方が、光りをよく反射するだろうしな……」
 鏡面状になっているシールを見て、溜め息混じりに納得した。つまりはこのシールに光が反射することによって、肖像画の目が光っているように見えたのだろう。
「え、どゆこと?」
「定家君、どういうこと?」
「お前らちょっとこっちに来て、よく見てみろって」
 一人で納得していた俺を遠巻きに見て、柊と秋海棠はおそるおそるこちらに近づいて来る。
 そんな二人やその後ろの飛燕に対して、こちらへと来るように俺は手招きをする。
「そっか、こういうことだったんだね……」
「はぁ~……こんな悪戯じみたものを、あたしらは怖がってたのね」
 無言で肖像画を指し示すと、二人はそれを見上げて全てを察したようだった。
 落胆するような、もしくは安堵するような。そんな言葉を漏らしていた。
「なんだよ、そんなオチだったのか。案外つまんないもんだな」
 二人に続くように肖像画を見た飛燕は、呆れたように呟きを漏らす。
「いや、あんたが一番ビビってたでしょ」
「間違いない」
「うん。叫んでたしね」
 何事もなかったようにしれっとしているので、一同から総ツッコミを受ける。
 この中で一番、肖像画を見て慌てふためいていたのは間違いなく飛燕だ。
「ま、まあ良いじゃんか! ほら次行こうぜ、次!!」
 自らの失態を誤魔化すように笑うと、飛燕は我先にと歩き出した。
 俺たちは溜め息混じりに苦笑すると、その後を追っていく。
『…………』
 その最中カズラは、なんか考えるようにずっと黙っていた。