当初の緊張感はどこかへ行ってしまったのか、飛燕は適当な所作で最後の肖像を照らす。
「――ヒッ……!?」
 しかしすぐにそんな空気は、一気に吹き飛んでしまう。
 最後の肖像画を照らした瞬間、飛燕は驚愕に支配された表情で短く悲鳴を上げた。
「で……出、たぁぁぁああァァ――!!」
 それも一瞬のことで、飛燕はすぐにけたたましい悲鳴を上げる。
「――ッ!?」
「あっ――え……!?」
「…………ッ!?」
 しかしそれは、俺たちも同じ事だった。
 俺も、柊も、秋海棠も。全員が血の気の引いた顔で、肖像画を見ていた。
「目が――光っ、て……!」
 飛燕は呼吸を荒げながら必死に言葉を紡ごうとしているが、狼狽しているせいか上手くいかないようだった。しかし飛燕の言いたいことは、みんな既に分かっていた。
「嘘でしょ……こんなの――」
「肖像画の……目、が――」
「光ってる……だと?」
 懐中電灯の光が照らす肖像画。その目は確かに煌々と光っている。
 不気味な光を宿すその眼光を目の当たりにした俺たちは、射貫かれたように身を竦ませることしかできなかった。
「う、あっ――」
 飛燕は驚きのあまり、懐中電灯を落としてしまう。
 不意に周囲が暗くなると、混乱は更に増していくのが分かる。
「な、な、な、ナンちゃん――!?」
「お、落ち着きなさいって、椿!」
 柊と秋海棠はお互いに抱き合いながら、戦々恐々とした声を漏らしている。
『お兄ちゃん、状況を説明して』
 一同がパニックに陥っている最中、ヘッドセット越しにカズラの声が聞こえてくる。
「それが……出たんだよ」
『出た? それはもしかして、肖像画の目が光ったってこと?』
「ああ、そうだ……」
 状況の説明を求めるカズラに、どうにか言葉を返す。
 冷静なカズラの声を聞くと、動揺も少しは収まっていくような気がした。
 実際に現場に居ないからこそ、こうやって動じないのだろう。
 今はそれをありがたく感じている。
『お兄ちゃん、落ち着いて。こう言う時は素数を数えるんだよ』
「分かった。落ちつくんだ……素数を数えて落ちつくんだ……二……三……五……七……十一……十三……十七……十九……」
 カズラの言葉に頷くと、素数を数えていく。
 素数は一と自分の数でしか割ることのできない孤独な数字。俺に勇気を与えてくれる。