仲間内での集まりに水を差すような行為にも関わらず、文句の一つも言わずに聞き入れてくれたことには感謝するばかりだった。
「なあ、牽牛……本当にそれやんの?」
 しかし二人とは対照的に、どこか微妙な表情で飛燕が尋ねてくる。
「そのつもりだけど……悪いな、飛燕」
「いや、別にいいんだけどさ……カズラちゃんには、この間の借りとかあるし」
 そんな飛燕に申し訳ない気持ちで謝罪する。
 柊と秋海棠は頼みを快諾してくれたが、飛燕はどこか気が乗らない様子だった。
 個人的にはこいつこそ、文句の一つも言わずに了承してくれると思っていたので、なんだか意外にも感じていた。違和感、と言った方がいいのか?
「まーだ言ってんの? いいじゃない、それくらい。別に困ることなんてないでしょ」
「いや、まあ……そう、なんだけどさ」
 煮え切らない様子の飛燕を見て、柊が呆れたように溜め息をつく。
 未練たらしく言葉を濁している飛燕に、業を煮やしているようだった。
「それよりも、早く行かないと。こんなところでもたもたしてたら、天文部の天体観測が終わっちゃうんじゃない?」
 お喋りはここまで、と柊が先に進もうと提案する。
 確かに天体観測が終わるまでまだ時間があったが、あまりのんびりとしていては鉢合わせの危険性もある。その提案は正論だと言えるので、一同は静かに頷いた。
『そう言えば、お兄ちゃん』
「なんだ?」
 一同が渡り廊下を進み始めると、カズラが言葉を漏らした。
『確認なんだけど、これから確かめるのは肖像画の目が光るって怪談だよね?』
「ああ。渡り廊下に飾ってある歴代の校長の肖像画の目が光る、って話だな」
 カズラには事前に、怪談については話してある。
 今日これから回るルートに関しても、説明は済ませてあった。
『了解。分かったよ』
「上手く状況が伝わらないかもしれないが、まあ我慢してくれ」
『大丈夫だよ、お兄ちゃん』
 あくまで俺の声とカメラが頼りなので、十全に状況は伝えられないかもしれない。
 その点を前もって言うが、カズラは軽い調子で答える。
『だってもう、だいたい〝正体〟の目星はついてるから』
「――は?」
 そのままさらっと、驚くべき発言をするカズラ。
 その真意を確かめようとするが、それは飛燕の声によって遮られた。
「これが肖像画、か」