顔は自分でも熱い分かるほど紅潮していたが、この時ばかりは暗闇が有耶無耶にしてくれるのをただただ感謝するばかりだった。

◇第一の怪『光る肖像画』
「ここが肖像画がある渡り廊下、か……」
 ついに俺たちは、目的の場所の一つである渡り廊下までやって来ていた。
「やっぱり、夜に来ると不気味だね」
 周囲の様子を見て、秋海棠が呟きを漏らした。
 確かに渡り廊下は何度も通ったことがあるが、昼と夜ではまったく印象が異なる。
 上部の天窓から差し込む光だけが頼りなく廊下を照らしているが、ここからでは奥部まで先を見ることができなかった。
「それじゃ、俺の方もそろそろやるか」
 ついに本番、となればやらねばならないことがある。
 ポケットからヘッドセットを取り出すと、それを頭部に装着して携帯とペアリングする。
 Bluetoothで無線が接続されたことを確認し、音声通話ソフトを立ち上げた。
「もしもしカズラ、聞こえるか?」
『ラブコメの波動を感じる』
「いきなりどうした?」
『いや、お兄ちゃんがお約束のラブコメ展開に巻き込まれてないか胸騒ぎして』
「……ちゃんと聞こえてるみたいだな」
 回線が正常に接続されているか確認するために電話越しに声を掛けたが、開口一番に聞こえてきたのは不機嫌そうなカズラの声だった。
 どうやら無事に繋がったいるようだが、一瞬ヒヤッととする。
「映像の方はどうだ?」
『うーん……流石にちょっと見えにくいけど、一応は大丈夫かな』
 音声が聞こえることが分かると、次に携帯電話のカメラを前にかざして確認を取る。
 多少の問題はあるが許容範囲内らしく、無事に自宅のカズラと回線が接続されたらしい。
「おぉー、流石に準備万端だね~」
 その様子を見ていた柊が感心したように声を上げる。
「悪いな、みんな。妹のワガママを聞いてもらっちまって」
 それに気付くと申し訳ない気持ちで、感謝と謝罪の入り交じった言葉を口にする。
「別に構わないって。せっかくだし、カズラちゃんも楽しんでねって伝えといてよ」
「うん。楽しいかどうかは、ちょっと分からないけどね」
 鷹揚に笑いながら答える柊と、微笑混じりに答える秋海棠。
 この二人は「妹も肝試しに参加させて欲しい」と言う無茶なお願いにも快諾してくれた。