「何て言うかな。一緒に居て楽しい奴は元気をもらえるんだけど、恋人とか四六時中一緒に居るような関係だったら疲れると思うんだよ。だから何の気負いもなく、お互い無理しないで自然体でいられるような関係が理想的かもな」
 どんな恋人が欲しいか、なんて真面目に考えたことがない俺にとって、これが秋海棠に納得してもらえるような答えかは分からない。
 ただ、漠然としたイメージはある。
 お互いが気負うことなく、ありのままを見せ合える関係。
 息を吸うように笑い合って、日課のように軽口を交わす。
 そんな関係が俺にとっては、理想的と言えるのかもしれない。
 そう考えると、これに当てはまるのはどちらかと言えば――
「どちらかと言えば、秋海棠の方が好みかもな」
 カズラとは違うタイプだが、秋海棠とは一緒に居てなんだか安心できる。
 誰かを思いやれる優しさは好感が持てるし、見ていてどこか危なっかしいところが放っておけなかったりする。
「うぇ?」
「あ」
 パチパチと瞬きをして、気の抜けた声を漏らす秋海棠。
 その表情は唖然と言うか、茫然と言うか。とにかく面食らっているのは間違いない。 
 秋海棠の様子を見て俺は、「しまった」と内心で自らの迂闊さを呪った。
「いや、他意はないんだ。柊と秋海棠だったら、秋海棠の方がタイプだって話で……」
「そ、そっか……うん……」
 誤魔化すように付け加えると、秋海棠はぎこちなく頷いて顔を俯かせる。
 うっかりと言ってしまったが、これは誤解されかねない発言だ。
 秋海棠もこんなタイミングで、告白じみたことを言われてしまって迷惑だろう。
「き、気にしないで――きゃっ……!?」
 あたふたとしながら身振り手振りで答える秋海棠だったが、なにかにつまずいたのかバランスを崩してしまう。
「だ、大丈夫か……秋海棠?」
 咄嗟に手を伸ばしてどうにか、よろめいた秋海棠の身体を抱き留める。
「ご、めんなさい、定家君……」
「夜で視界も悪いからな、気を付けろよ」
 消え入りそうなほどか細い声で謝罪する秋海棠を見て、どうにか無事で済んだとホッと一息を吐く。
「定家君にこうやって助けてもらうのは、二回目だね……」
「二回目……?」
 秋海棠の身体を立たせると、俯きがちになりながらポツリと呟きが聞こえる。
 それが耳に入ると、俺は思わず首を傾げる。