俺たちは特に会話を交わすことなく、薄暗い廊下を進んでいく。
 前の方からは小声ながら、柊と飛燕の漫才じみた掛け合いが聞こえてくる。
「……ナンちゃんと千鳥君、仲良いよね」
「そういや、そうかもしれないな」
 秋海棠の言葉を聞いて、確かにと今更ながら思い至る。
 柊は女子に関してはそれなりに社交的だが、男子に関してはあまり会話を交わしているところを見たことはない。
 漫研にも男子部員は居るらしいので、男子とまったく関わっていないわけではないようだが。
「柊って結構、美人だからな。普通の男子だと物怖じするんだよ」
 俺も実際に話してみるまで、柊には近寄りがたい雰囲気を感じていた。
 高校生にしては大人びた雰囲気と、他者に威圧感さえ与える美貌が気安く話かける隙を与えないのだ。
 もっとも、実際の人となりが分かれば、その印象は百八十度変わるのだが。
「そうなのかな?」
「そういうもんだよ」
 ここら辺は同性と異性では差が出てくるのだろうか。
 男子からは一目置かれている柊も、女子にとっては親しみやすい存在なのかもしれない。
 飛燕の場合そういう繊細な感覚が皆無なので、同じクラスになった際には平然と話かけていたが。
 そのお陰でこうして一緒に肝試しをしたり原稿を手伝ったりする仲になったのだから、世の中なにが起こるか分からないものだ。
「やっぱり柊君も、ナンちゃんみたいな美人さんの方が好き?」
 柊について話し終わると、不意に秋海棠が尋ねてきた。
「どうしたんだよ、いきなり」
「あ、えっと……ほ、ほら。さっき定家君、ナンちゃんのこと美人って言ってたから! 男の子ってやっぱり、綺麗な子が好きなのかなーって……あはは」
 脈絡のない質問に怪訝そうに眉をひそめる。
 秋海棠は取り繕うように笑いながら答えるが、いまいち納得はできない。
「そうだな……確かに柊は美人だし、一緒に居て楽しいな」
「……うん」
 しかし質問には、答えるのが義理だろうか。
 意図は掴めないが、質問に対しては正直に答えてみせる。
 だが秋海棠はその答えを聞いて、どこかしょんぼりとしているようだった。
「でも、俺は付き合うとするなら、一緒に居て安心できる奴の方が良いな」
「一緒に居て安心できる……?」
 言葉を続けると秋海棠はその意味が分からないのか、不思議そうに首を傾げる。