「『そう……このまま俺のエクスカリバーを飲み込め』牽牛は発情する飛燕に向かって、自らの宝剣を解き放つ。『ダメだ、牽牛。お前のエクスカリバーは、俺の鞘には大きすぎる』涙を浮かべて懇願する飛燕を見て、牽牛は艶めかしい笑みを浮かべたまま強引に宝剣を突き立てる。『そんなこと言っても、お前の鞘はこんなにも潤滑油塗れじゃないか』」
「うわーん! 牽牛ー、俺が柊によって辱められてるぅぅぅ――!!」
「お前に関しては自業自得だが、俺にまで飛び火するのは勘弁してくれ……」
 鬼気迫る表情で淡々と恐ろしい言葉を口にする柊を見て、飛燕は震えながら泣きついてくる。飛燕はどうでもいいが、その相手役に俺を立てるのは切実にやめて欲しい。
「落ち着け柊。飛燕のライフはもうゼロだ」
「……仕方ないわね。今日はこのくらいで勘弁してあげる」
「BL怖いBL怖いBL怖い……」
 ガタガタ震える飛燕を目で示すと、多少の溜飲は下がったのか柊はフッと勝ち誇った笑みを浮かべる。 
「確かに文化祭の設営とかで学校に泊まったことはあるけど、あの時はみんないたからな。こういう風に普段の学校で完全に人が居ない時間帯に来るのは、確かにちょっと不気味だ」
 柊を宥めるように、文化祭の出来事を思い出しながら呟きを漏らす。
 あの時は学校全体がお祭りモードに入っていたからか、こんな風な感想を抱くことはなかった。言わばあれは学校が狂騒の中にあったからで、これが本来の姿だと言える。
「そうそう。自分の知らない裏の顔を見ちゃった、みたいな感じ?」
「まあ、言いたいことは分かるよ」
 普段知っているものとはまったく異なる雰囲気に、違和感を感じてしまうのだろう。
 そこに不気味さを感じてしまうのは、何もおかしなことではない。
 それが一日の大半を過ごしている場所ならば尚更だ。
「そういや、柊が今回の肝試しに参加するのは、少し意外だったな」
「そうかな?」
「確か最近は原稿で忙しい、って言ってたしな。もうすぐなんだろ、夏コミ?」
「うーん……そうなんだけど、さ」
 俺の投げかけたふとした疑問に、柊はどこか歯切れの悪い言葉を漏らす。
「この間、千鳥も言ったけどさ……なんだかんだ、これが最後の夏じゃん?」
「……そうだな」
「だからこれも思いで作りの一環と言うか……大人になったときに、こんな馬鹿やったなーって思い出せたら楽しそうじゃん」