FILE:2 『学校の怪談VSひきこもり』出題編



◇学校の怪談

「そういやさ――」

 ある日の昼休み。

 いつものメンバーで一緒に昼ご飯を食べていると、不意に飛燕が口を開いた。

「何よ、また変な話を持って来たんじゃないでしょうね?」

 弁当を食べていた箸を一旦止め、柊が怪訝そうな顔で問いかける。

「何でそうなるんだよ!」

 柊のツッコミに飛燕は心外だ、と言わんばかりに片手に持った焼きそばパンを机の上に置いて抗議する。

 机の上には他にも購買で買ってきた総菜パンが置いてある。

「えー、だってさ~」

 抗議する飛燕を見て柊は、訝しげな眼差しを送りながら言葉を続ける。

「千鳥がそうやって話を切り出すときって、いつも面倒事じゃん」

「確かにな」

 柊の言葉に俺も、購買で買ってきたパンを食べながら答える。

「そういや、前回の時もこんな感じだったしな」

 約一ヶ月前に巷を騒がせていた『路地裏の亡霊』の事件を思い出す。

 あの時も確かこうやって、飛燕から話を持ちかけられたような気がした。

「まあまあ、そんなこと言わずに聞いてあげようよ」

 俺たちが疑念の視線を送っている最中、秋海棠が弁当箱を机の上に置いて苦笑気味に笑いながらそう言った。

 ピンク色の小さな弁当箱には、彩り鮮やかなおかずが敷き詰められていて、見てる分にも毎回楽しませてもらっている。
 話を聞けばこの弁当は、秋海棠が自分で作っているらしいから大したものだ。

 購買で毎日の昼食を購入してる身からすれば、実に耳が痛い話でもある。

「もしかしたら、とっても面白い話かもよ? 
ね、千鳥君??」

 ニッコリと微笑みながら言葉を続けるが、その言い方では逆にハードルを上げかねない。

 もちろん秋海棠としては、別に他意はないはずだが。

「え? あ、うん。そ、そうだな~……」

 予想だにしない期待というプレッシャーを受け、飛燕は引きつった笑みを浮かべる。

「で、でも……そこまで面白い話でもなかったような……あはは……」

 上げられたハードルをどうにか下げようとする飛燕。

「じゃあ、後で良いな。
それなら俺の話を聞いてくれ。
実は昨日、カズラがな――」

「分かった! 話すから! 話させて!!」

 別に大した話でないなら言うのならば、と俺は飛燕の話を流して会話を進める。

 しかし飛燕はそれを聞くと、慌てて抗議の声を上げた。

「何だよ。どうでもいい話なら、俺の妹の可愛さについて話してた方が有意義だろ?」

「その話は毎回、長くなるじゃんか……」

 自分の妹の可愛さについて語ることは、模範的な兄としては世間話と同義である。
 今日は天気が良いね、と言うような気軽さと同じくらいの感覚でウチの妹は可愛いね、と話すものだ。

 しかし、飛燕は呆れたような表情で溜め息を吐く。
 非常に心外だ。

 ごくごく一般的な兄の義務について柊や秋海棠に同意を得ようとするが、残念ながら目を合わせてくれない。
 何故だ? と内心で首を傾げる。

「と・に・か・く! 気になる話を聞いたんだけどさ――」

仕切り直すように飛燕はゴホンと咳払いをし、話を元に戻した。