◇後日談
今回の後日談。
あの後、俺は飛燕に『路地裏の亡霊』の正体を説明した。
カズラからの受け売りをただ話しただけが、飛燕の心配は無事に解決されたようだ。
その証拠に昨日は別れ際に、スキップでもしそうなくらい軽やかな足取りでバイト先へ向かっていった。
そんな飛燕を見送ると、俺は廃ビルへ向かった。
トリックを説明するために使った携帯電話を回収するのが目的だ。
ネットで適当にダウンロードした犬の鳴き声をタイマー機能で再生することで、擬似的に亡霊の出現条件を再現していたのだ。
携帯を無事に回収した俺は帰宅し、カズラに事の顛末を報告して今回の件は一件落着だ。
「いやー、昨日は本当にビックリしたぜ~!」
翌日、学校で飛燕は感慨深そうに言う。
「まさか『路地裏の亡霊』の正体が、犬だったなんてな……」
「それも距離が離れた廃ビルから鳴き声が聞こえてたなんて、よく分かったよね」
飛燕の言葉に秋海棠も同意するように頷く。
昨日の一件は早速、学校でも話題の中心になっていた。
巷を騒がせていた噂の正体が明らかになったのだから、当然の流れかもしれないが。
「とりあえず、役所の窓口とか保健所には連絡はしてみるつもりだ。
野良犬に関しても、流石にこのままにはしておけないからな」
亡霊の正体やトリックが明かされても、事件は根本的に解決していない。
忌避剤の効果だって長くは続かないだろうし、廃ビルと排水溝が未だ繋がっていることもこのまま放っておけない。
もう二度と同じような騒ぎが起きないためにも、対策を講じうる必要があった。
俺のような一介の高校生では知識や資金もたかが知れているので、こういったことは専門家に任せるのが適任だろう。
最初は怪訝そうな顔をされるかもしれないが、根気強くキチンと真相を話せば相手も分かってくれるはずだ。
「でも、ケンゴっちの妹さん……カズラちゃんだっけ? スゴいよねー」
今後の対応を話し終わると、柊が感心したように呟きを漏らす。
「だってカズラちゃん本人は、現場に行ってないんでしょ?」
「ん? ああ、確かにそうだな」
「ケンゴっちからの話と、後は現場の写真だけを見て推理したんだからさ。
普通に自分で調査したのとは難易度が違うんじゃない?」
考えてみればカズラは実際に現場に出向くことなく、今回の事件の真相を解き明かした。
それはよくよく考えてみれば、柊の言うように快挙とでも言えるのではないか?
実際に現場に出向いて調査した俺が真相には到底辿り着けなかったのだから、家に居るまま謎を解いたカズラは末恐ろしいことをしてみせた。
あくまで他人から見聞きした断片的な情報から証拠を集め、そこから推理を組み立て裏付けしていく。
それはまさに何千ものパズルのピースを当てはめていく作業を連想させる。
「まるでミステリーに出てくる名探偵……いや、安楽椅子探偵みたいじゃん」
「安楽椅子探偵?」
聞き慣れない言葉に思わず、オウム返しで聞き返してしまう。
名探偵ならば語感で分かるが、安楽椅子探偵とはいったい何のこと言うのだろうか。
「知らない?
英語だとアームチェア・ディテクティブ、って言うんだけど」
「いや、初耳だな」
「部屋から出ることなく、もしくは現場に赴くことなく、事件を推理する探偵のことを指すジャンルなんだけどさ。
今回のカズラちゃんはまさにそれだよね」
「なるほどな」
カズラへ寄せられた賛辞の言葉を思わず感心しながら聞く。
なるほど、安楽椅子探偵か。
結構、格好いいじゃないか。
「でも――」
今のカズラにはそれよりも似合っている呼称を思いつくと、呟くようにこう言ったのだった。
「アイツの場合は『引きこもり探偵』、って言った方がいいのかもな」
ウィズドローワル・ディテクティブ。
そんなどこぞのライトノベルにでも出てくるような呼称を思い浮かべて、俺は思わず笑みを漏らした。
さて、本人が聞いたら何て言うことやら。
〈FILE1『路地裏の亡霊』:了〉
今回の後日談。
あの後、俺は飛燕に『路地裏の亡霊』の正体を説明した。
カズラからの受け売りをただ話しただけが、飛燕の心配は無事に解決されたようだ。
その証拠に昨日は別れ際に、スキップでもしそうなくらい軽やかな足取りでバイト先へ向かっていった。
そんな飛燕を見送ると、俺は廃ビルへ向かった。
トリックを説明するために使った携帯電話を回収するのが目的だ。
ネットで適当にダウンロードした犬の鳴き声をタイマー機能で再生することで、擬似的に亡霊の出現条件を再現していたのだ。
携帯を無事に回収した俺は帰宅し、カズラに事の顛末を報告して今回の件は一件落着だ。
「いやー、昨日は本当にビックリしたぜ~!」
翌日、学校で飛燕は感慨深そうに言う。
「まさか『路地裏の亡霊』の正体が、犬だったなんてな……」
「それも距離が離れた廃ビルから鳴き声が聞こえてたなんて、よく分かったよね」
飛燕の言葉に秋海棠も同意するように頷く。
昨日の一件は早速、学校でも話題の中心になっていた。
巷を騒がせていた噂の正体が明らかになったのだから、当然の流れかもしれないが。
「とりあえず、役所の窓口とか保健所には連絡はしてみるつもりだ。
野良犬に関しても、流石にこのままにはしておけないからな」
亡霊の正体やトリックが明かされても、事件は根本的に解決していない。
忌避剤の効果だって長くは続かないだろうし、廃ビルと排水溝が未だ繋がっていることもこのまま放っておけない。
もう二度と同じような騒ぎが起きないためにも、対策を講じうる必要があった。
俺のような一介の高校生では知識や資金もたかが知れているので、こういったことは専門家に任せるのが適任だろう。
最初は怪訝そうな顔をされるかもしれないが、根気強くキチンと真相を話せば相手も分かってくれるはずだ。
「でも、ケンゴっちの妹さん……カズラちゃんだっけ? スゴいよねー」
今後の対応を話し終わると、柊が感心したように呟きを漏らす。
「だってカズラちゃん本人は、現場に行ってないんでしょ?」
「ん? ああ、確かにそうだな」
「ケンゴっちからの話と、後は現場の写真だけを見て推理したんだからさ。
普通に自分で調査したのとは難易度が違うんじゃない?」
考えてみればカズラは実際に現場に出向くことなく、今回の事件の真相を解き明かした。
それはよくよく考えてみれば、柊の言うように快挙とでも言えるのではないか?
実際に現場に出向いて調査した俺が真相には到底辿り着けなかったのだから、家に居るまま謎を解いたカズラは末恐ろしいことをしてみせた。
あくまで他人から見聞きした断片的な情報から証拠を集め、そこから推理を組み立て裏付けしていく。
それはまさに何千ものパズルのピースを当てはめていく作業を連想させる。
「まるでミステリーに出てくる名探偵……いや、安楽椅子探偵みたいじゃん」
「安楽椅子探偵?」
聞き慣れない言葉に思わず、オウム返しで聞き返してしまう。
名探偵ならば語感で分かるが、安楽椅子探偵とはいったい何のこと言うのだろうか。
「知らない?
英語だとアームチェア・ディテクティブ、って言うんだけど」
「いや、初耳だな」
「部屋から出ることなく、もしくは現場に赴くことなく、事件を推理する探偵のことを指すジャンルなんだけどさ。
今回のカズラちゃんはまさにそれだよね」
「なるほどな」
カズラへ寄せられた賛辞の言葉を思わず感心しながら聞く。
なるほど、安楽椅子探偵か。
結構、格好いいじゃないか。
「でも――」
今のカズラにはそれよりも似合っている呼称を思いつくと、呟くようにこう言ったのだった。
「アイツの場合は『引きこもり探偵』、って言った方がいいのかもな」
ウィズドローワル・ディテクティブ。
そんなどこぞのライトノベルにでも出てくるような呼称を思い浮かべて、俺は思わず笑みを漏らした。
さて、本人が聞いたら何て言うことやら。
〈FILE1『路地裏の亡霊』:了〉