FILE:1『路地裏の亡霊』解答編
◇路地裏の亡霊:再現編
「なあ、牽牛……本当にまた行くのか?」
翌日の放課後。
俺と飛燕はまた繁華街の雑踏を歩いていた。
「もういいって。結局、あれはオレの勘違いだったんだよ」
隣を歩く飛燕はどこか浮かない表情で話しかけてくる。
「そうもいかないんだよ。
お前は今日もあの道を通るんだろ?」
「だから、大丈夫だって。
もう『路地裏の亡霊』は出ないんだから」
「本当にそう言い切れるか?
本当はお前だって、まだ不安なんじゃなんだろ」
「それは……そうだけど……」
正直に言えば不安だが、これ以上友人を付き合わせるわけにはいかない。
そんな思惑が見て取れる辺り、短くない年月をこいつと過ごしているんだなと実感する。
馴れ馴れしいくせに、そう言う距離感を保とうとするのが千鳥飛燕という男だ。
「困ってるときくらい遠慮すんなよ」
「牽牛……」
小さく笑ってそう告げる。
飛燕も本当に嫌ならば、昨日だって無理に誘ってこなかったと思う。
あくまで信頼しているからこそ、あんな無茶ぶりをするのだろう。
そんな無茶なお願いにも、結局は折れてしまうことを俺自身も分かっている。
だからこそ、中途半端な遠慮はして欲しくなかった。
「それに、な」
意味深な笑みを作って、勿体ぶった口調で俺は言う。
「これから『路地裏の亡霊』の正体を教えてやるよ」
「えっ!? それってどういう――」
「さて、着いたぞ」
いつの間にか俺たちは件の路地裏へと辿り着き、静かに歩みを進めて行く。
「なあ、牽牛。さっきのってどういう意味だよ?」
「さてな。お楽しみは最後まで取っとくもんだろ」
先ほどの言葉の真意を尋ねる飛燕をはぐらかしながら、俺たちは目印のゴミ箱のところまでやって来ていた。
「お楽しみって――」
飛燕が不満そうに眉を吊り上げた瞬間、突如として異音が聞こえた。
『イッ、イィィィィッ――!!』
「こ……これは――!?」
三半規管を揺さぶるようなその不気味な音は、もはや絶叫に近い。
周囲の空気を振るわせる〝声〟は、例外なく俺たちの身体にも響き渡っていく。
『ウッ、ウオォォォォンッ――!!!!』
「出、出たあぁぁぁ――!?」
一昨日、自らを襲った〝声〟を聞いて、飛燕は咄嗟にキョロキョロと周囲を見渡す。
しかし辺りには、俺たち以外に誰もいない。人間どころか、犬や猫の類いの一匹さえ。
姿を見せずにただ絶叫する『路地裏の亡霊』しか。
「け、け、け、牽牛! 早く逃げるぞ!!」
半狂乱に陥った飛燕は俺の右手首を掴んで、路地裏から逃げだそうとする。
「落ち着けよ、飛燕」
「これが落ち着いていられるかっての!」
宥めるように言うが、飛燕は尚も俺を引っ張り、とにかくここから逃げ出そうとする。
「それじゃあ、この〝声〟をもっとじっくりと聞いてみろよ」
「はぁ!? じっくり、って……」
俺の言葉の真意が理解できないのか、怪訝そうな表情でこちらを見つめてくる飛燕。
「…………」
しかし、暫くするとようやく決心がついたのか、飛燕は目をつぶって深呼吸をする。
そして、耳を澄ませて亡霊の声に耳を傾ける。
『ウゥゥゥオォォォォォン――』
「ん……?」
『オォォォォン――』
「……んん??」
覚悟を決め落ちいて辺りに響き渡る〝音〟を聞いていると、飛燕はやがて不思議そうに首を傾げ始めた。
「なんかこれ……聞いたこと、あるような……」
そして暫く音を吟味するように聞いていると、自信なさげに言葉を漏らした。
「もしかして――犬の鳴き声、か?」
「ああ、正解だ」
しかし俺は、そんな飛燕の回答を肯定するように頷いた。
「えぇ!? いや、ちょっと待ってくれ……」
飛燕はそれが予想外らしく、キョロキョロと挙動不審に周囲を見渡して言葉を続ける。
「でも、犬なんかいないじゃん!?
それに鳴き声も変な感じだし……」
飛燕の言っていることは正しい。
周囲には犬など存在せず、聞こえてくる鳴き声も通常のものとは大きく異なる。
よほど注意深く聞かなければ、犬の鳴き声が音源とは分からないだろう。
「ヒントは下、だ」
「……下?」
そんな疑問に答えるべく、俺は地面を指さして言った。
指が指し示す先にあるのは地面、もといそこに設置されている排水溝だった。
「排水溝が何か関係してるのか?」
しかし飛燕はどうして今回の件に、排水溝が関係してくるのかぴんと来ないようだ。
それもそうだろう。俺だってカズラから聞くまで、そんなことは考えもしなかったのだから。
「それじゃあ、種明かしといこうか」
そして俺は語り始める。
カズラが解き明かした『路地裏の亡霊』の正体を。
◇路地裏の亡霊:再現編
「なあ、牽牛……本当にまた行くのか?」
翌日の放課後。
俺と飛燕はまた繁華街の雑踏を歩いていた。
「もういいって。結局、あれはオレの勘違いだったんだよ」
隣を歩く飛燕はどこか浮かない表情で話しかけてくる。
「そうもいかないんだよ。
お前は今日もあの道を通るんだろ?」
「だから、大丈夫だって。
もう『路地裏の亡霊』は出ないんだから」
「本当にそう言い切れるか?
本当はお前だって、まだ不安なんじゃなんだろ」
「それは……そうだけど……」
正直に言えば不安だが、これ以上友人を付き合わせるわけにはいかない。
そんな思惑が見て取れる辺り、短くない年月をこいつと過ごしているんだなと実感する。
馴れ馴れしいくせに、そう言う距離感を保とうとするのが千鳥飛燕という男だ。
「困ってるときくらい遠慮すんなよ」
「牽牛……」
小さく笑ってそう告げる。
飛燕も本当に嫌ならば、昨日だって無理に誘ってこなかったと思う。
あくまで信頼しているからこそ、あんな無茶ぶりをするのだろう。
そんな無茶なお願いにも、結局は折れてしまうことを俺自身も分かっている。
だからこそ、中途半端な遠慮はして欲しくなかった。
「それに、な」
意味深な笑みを作って、勿体ぶった口調で俺は言う。
「これから『路地裏の亡霊』の正体を教えてやるよ」
「えっ!? それってどういう――」
「さて、着いたぞ」
いつの間にか俺たちは件の路地裏へと辿り着き、静かに歩みを進めて行く。
「なあ、牽牛。さっきのってどういう意味だよ?」
「さてな。お楽しみは最後まで取っとくもんだろ」
先ほどの言葉の真意を尋ねる飛燕をはぐらかしながら、俺たちは目印のゴミ箱のところまでやって来ていた。
「お楽しみって――」
飛燕が不満そうに眉を吊り上げた瞬間、突如として異音が聞こえた。
『イッ、イィィィィッ――!!』
「こ……これは――!?」
三半規管を揺さぶるようなその不気味な音は、もはや絶叫に近い。
周囲の空気を振るわせる〝声〟は、例外なく俺たちの身体にも響き渡っていく。
『ウッ、ウオォォォォンッ――!!!!』
「出、出たあぁぁぁ――!?」
一昨日、自らを襲った〝声〟を聞いて、飛燕は咄嗟にキョロキョロと周囲を見渡す。
しかし辺りには、俺たち以外に誰もいない。人間どころか、犬や猫の類いの一匹さえ。
姿を見せずにただ絶叫する『路地裏の亡霊』しか。
「け、け、け、牽牛! 早く逃げるぞ!!」
半狂乱に陥った飛燕は俺の右手首を掴んで、路地裏から逃げだそうとする。
「落ち着けよ、飛燕」
「これが落ち着いていられるかっての!」
宥めるように言うが、飛燕は尚も俺を引っ張り、とにかくここから逃げ出そうとする。
「それじゃあ、この〝声〟をもっとじっくりと聞いてみろよ」
「はぁ!? じっくり、って……」
俺の言葉の真意が理解できないのか、怪訝そうな表情でこちらを見つめてくる飛燕。
「…………」
しかし、暫くするとようやく決心がついたのか、飛燕は目をつぶって深呼吸をする。
そして、耳を澄ませて亡霊の声に耳を傾ける。
『ウゥゥゥオォォォォォン――』
「ん……?」
『オォォォォン――』
「……んん??」
覚悟を決め落ちいて辺りに響き渡る〝音〟を聞いていると、飛燕はやがて不思議そうに首を傾げ始めた。
「なんかこれ……聞いたこと、あるような……」
そして暫く音を吟味するように聞いていると、自信なさげに言葉を漏らした。
「もしかして――犬の鳴き声、か?」
「ああ、正解だ」
しかし俺は、そんな飛燕の回答を肯定するように頷いた。
「えぇ!? いや、ちょっと待ってくれ……」
飛燕はそれが予想外らしく、キョロキョロと挙動不審に周囲を見渡して言葉を続ける。
「でも、犬なんかいないじゃん!?
それに鳴き声も変な感じだし……」
飛燕の言っていることは正しい。
周囲には犬など存在せず、聞こえてくる鳴き声も通常のものとは大きく異なる。
よほど注意深く聞かなければ、犬の鳴き声が音源とは分からないだろう。
「ヒントは下、だ」
「……下?」
そんな疑問に答えるべく、俺は地面を指さして言った。
指が指し示す先にあるのは地面、もといそこに設置されている排水溝だった。
「排水溝が何か関係してるのか?」
しかし飛燕はどうして今回の件に、排水溝が関係してくるのかぴんと来ないようだ。
それもそうだろう。俺だってカズラから聞くまで、そんなことは考えもしなかったのだから。
「それじゃあ、種明かしといこうか」
そして俺は語り始める。
カズラが解き明かした『路地裏の亡霊』の正体を。