「……え?」
「早く失せろ、って言ってんだよ。俺が最愛の妹を泣かせたヤツを目にして、いつまで理性を保てるか試してみるか?」
 顔を離すと吐き捨てるように言う。蒲公は唖然としていたが、俺は苛立ちを隠そうともせずに憮然と告げる。そして最後にはニヤァと薄気味悪い笑みを浮かべて、言葉を続けた。
「――あ、あぁ……ひいぃぃぃッッッ!?」
 すると弾かれた様に蒲公は立ち上がり、一心不乱に玄関を目指して走って行く。
 慌てふためいて逃げ出す蒲公を追うことはせずに、乱暴に開かれた玄関のドアが閉まる音で家からいなくなったことを理解した。
「……しまった、脅しすぎたか」
 蒲公の様子を思い出して、俺は一人で頭を抱えていた。
 いくら御坊とカズラのためとは言え、あれは流石にやり過ぎたのかもしれない。
「お兄ちゃん……」
「ひいぃぃぃ! み、見てたのか?」
 客間のドアの影から声が聞こえると、そこには若干引き気味のカズラがいた。
 部屋にいると思っていたので、驚いて妙な声を上げてしまった。
「女子高生相手にガチの脅迫するなんて、流石ですお兄様……」
「よさないか、カズラ」
「誰にでもできることじゃないよ。お兄様はまたしても、不可能を可能にされました」
「さすおには勘弁してつかぁさい……」
 少なくともカズラには見られたくなかった光景なだけに、俺はしくしくと両手で顔を覆いながら甘んじてネタにされることを受け入れる。
 女子高生を脅迫している兄の図、なんてとてもじゃないが見せられない。
「……でも、わたしたちのためにしてくれたんでしょ?」
「はぁ……最初から聞いてたのかよ」
 口元に微笑を浮かべて、カズラは問いかけてくる。
 俺はそれを聞いて、溜め息混じりに肩を竦めた。
「もし御坊が戻ってきた時、少しでもマシな環境にしてやりたかったからな」
 蒲公たちはきっと、御坊のしたことを許さないだろう。自分たちに非を認められるような器があるとは思えない。ならばきっと報復をしてくるはずだ。
 今回のことはやがて学校中に知れ渡る。人の口には戸を立てられないのだから。
 だから御坊が帰ってくる前に、蒲公に釘を刺しておく必要があった。
「でもどちらにせよ、アイツは前の立ち位置には戻れないだろうな。表向きには危害を加えられなくても、クラスのヤツらは以前みたく接してくれないはずだ」