そして、ポツリと言葉を漏らしたのだった。
「ありがとう、定家さん。いつかまた、君と話せる日をずっと待ってる」
 そう言い残して、御坊君は教室をあとにしていった。
 わたしたちはそれをただ、見守っていたのだった。
「頑張ったな、カズラ」
 御坊君が立ち去ると、ずっと黙っていたお兄ちゃんが不意に口を開く。
 そしてわたしの頭の上に、ポンと手を置いて優しく撫でてくれた。
「……お兄ちゃん。本当にこれで良かったのかな」
 顔を俯かせると、床に涙の雫がぽたぽたと落ちていくのが分かる。
 御坊君がいる前では我慢していた涙が、今更になって溢れだしてきたらしい。
「きっとわたし、酷いことを言ったと思う。自分でもよく分からないのに、偉そうなこと言って御坊君を傷つけたんじゃないかな……」
 これが最善の結果だったのか、わたしには分からない。
 もっと良い解決策があったんじゃないか、そう思ってしまうのだ。
 結局はわたしも自分のエゴを御坊君に押しつけただけなのかもしれない。
「それは俺にも分からない。でも――」
 涙に顔を濡らすわたしを自分の胸に抱き寄せて、お兄ちゃんは優しい声で答える。
「最後に見たアイツの顔、それが答えでもいいんじゃないか」
 お兄ちゃんの体温を感じながらわたしは、最後に見た御坊君の顔を思い出す。
 その表情は――迷いと不安を断ち切ったような晴れ晴れとした笑顔だった。

◇後日談
 今回の後日談。
 御坊は言葉通りあのあと、学校側に全てを自供した。
 他の被害者たちとは違って直接的な問題行動とは言えないが、本人の希望もあって騒動を起こした責任として一週間の謹慎処分が言い渡されたらしい。
「ちくしょう……まさか、御坊のヤツが犯人だったなんて」
 俺の説明を聞いた蒲公は、憎々しげに表情を歪めて吐き捨てるように言う。
 今回の事件を持ちかけてきた蒲公にも事情を説明するべく、再び家に呼んだのだった。
「絶対に許さねぇ……アイツ、戻ってきたらどうなるか分かってんだろうな……」
 御坊の過去の話は流石に伏せたが、蒲公は騙されたと知って不快感を隠そうともしない。
「あ、牽牛さんも今回はありがとうございました。本当に助かりました。牽牛さんがいてくれた、心強かったです。そうだ、あとでお礼にご飯でも――」
 御坊について悪態を吐いていた蒲公は、ハッとしたようにこちらを見て頭を下げる。