その背中は僅かにだが震えていて、声も消え入るようなか細いものだった。
「ねえ、定家さん。僕はいったい、どうすればよかったのかな? どうしたら君は、僕のことを許してくれるのかな?」
 こちらを振り返って、御坊君はわたしに問いかけた。
 その顔は涙に濡れていて、ずっと苛まれてきた罪悪感に押し潰されてしまいそうだった。
「……ごめんなさい。わたしには、分からない」
 そんな御坊君を見て、わたしは顔を伏せて静かに答えた。
「わたしには御坊君が、どんな辛い思いをしてきたか分からないから。想像することはできるけど、完全に理解はしてあげられない」
 ここで安易に御坊君のしてきたことを肯定するのは、とても辛い思いをしながらここまで頑張ってきた彼に対して不誠実なように思えてしまう。
 だからわたしは、正直にありのままの気持ちを口にする。
「だから、相談すれば良かったんだと思う。きっとそれは一人で抱え込むのには重すぎるから、誰かと重さを分かち合って一緒に考えようよ。御坊君がどんなことを感じて、どんなことを考えたのか、わたしに話して欲しいの。今すぐじゃなくていい。いつか御坊君が落ち着いて話せるようになったら、たくさんお話をしてみんなで考えてみようよ?」
 自分一人で苦しみに耐えるのは、とても難しいことだ。
 だからこそお互いに支え合えば、きっとそれを乗り越えられるのだと思う。
 わたしはお兄ちゃんに、それを教えてもらったから。
「それと……方法は間違ってたのかもしれないけど、御坊君がわたしのことを心配してくれてたのは……その、嬉しかった……よ? わたしは、御坊君を恨んでなんかない」
 誰にも見えないところで傷ついて、それでも藻掻きながら一生懸命な彼の姿を見て。
 わたしは素直に嬉しかった。
 こんな自分のことを想ってくれる人がいて、心の底から感謝の気持ちが湧いてくる。
「だから――」
 お兄ちゃん以外にも、私の味方はここにいる――そう思えたから。
「御坊君、ありがとう」
 わたしは彼に感謝の言葉を告げた。
 万感の意を込めて、わたしの味方でいてくれた彼に。
 孤独な戦いを続けてきた彼を労うように、わたしは御坊君にお礼を口にする。
「……そっか。そんなに簡単なことだったんだ」
 そんなわたしの言葉を御坊君は、呆気にとられたようにただ聞いていた。