「アイツらにとって、イジメてる相手は虫けらみたいなものさ。軽い気持ちで踏みつぶして、一人の人生が台無しになったとしても罪悪感を感じない。ただ自分のために、ただ楽しいから、そうやって他人を残酷に蹂躙するんだ」
「御坊君……」
「あそこで再会しなくても、そんなヤツはどうせ将来同窓会かなんかで酒の肴にしながら言うんだよ『あの頃は若かった。今は申し訳なく思ってる』ってさ。そのくせに自分は就職して夢を果たして、恋人と結婚して子供を作ると全部忘れて、いつの日か自分の子供に言うんだよ『他人の痛みの分かる子になりなさい。絶対に誰かをイジメてはいけません』ってさぁ!」
 御坊君は声を荒げて糾弾を続ける。その鬼気迫る形相は彼の深い憎悪の念を現している。
「どの面下げてそんなことが言えるんだ! お前が……お前らの夢や幸せの下には、かつて踏みつぶした誰かの人生の残骸が転がっているのに、どうしてそんなに残酷なことが言えるんだ……ッ!?」
 何度も拳を机に叩き付け、御坊君は怨嗟の叫び声を嘆き続ける。
 心の奥底からにじみ出す憎悪は、彼が長い間抱き続けていた闇そのものかもしれない。
「だから……だからそんな奴らは、僕が裁いてやろうと思ったんだ。幸いなことに、それができる環境は整ってたからね」
 拳の皮が破れ流血する自らの手を見て、御坊君は静かに呟いた。
「篝火たちのパスワードを割り出すのも、拍子抜けするくらい簡単だった。誕生日、名前のイニシャル、恋人の名前、そんな誰でも思いつくような単語を試してみたら、あっけなくログインできたよ。篝火のパスワードなんて傑作でさ、僕と付き合った記念日だったんだよ? 最高に笑えて、反吐が出るような気分だった」
 肩を震わせ哄笑する御坊君。わたしにはそんな彼の姿が、涙を流しているように見えた。
「演技とは言え、アイツとキスをした日には必ず吐いたよ。胃の中が空っぽになるくらい嘔吐して、うがい薬で口内を徹底的に洗浄しても死にそうなくらい気持ち悪かった。そんなことを何も知らないで、呑気に恋人気分を味わっていたって思うと滑稽じゃないかい?」
 顔を上げて笑う御坊君の目には、暗い感情がありありと感じられる。
 その口元は歪に歪んでいて、被害者たちを嘲笑うように言葉を吐き捨てた。