◇廃ビル探索
「お、牽牛。来たな」
「悪い、待たせたか?」
夕方から夜に移り変わる時間帯。
賑わいを見せる雑踏の中から飛燕の姿を見つけると、小走りで駆け寄っていく。
待ち合わせ時間の五分前だったが、どうやらそれより前に到着していたらしい。
「いや、オレも今さっき来たとこだよ」
待たせてしまったことについて謝罪するが、飛燕は鷹揚に笑いながら答える。
普段はおちゃらけているが、こういう時間に余裕を持ってるところがコイツの良いところでもある。
「んじゃ、行こうぜ」
そう言うと飛燕は引率するように歩き出す。
俺はその後について行くと、カズラからの頼まれ事を思い出した。
「そうだ。ちょっと寄り道してもいいか?」
「寄り道? ああ、別に大丈夫だけど。
どこ行くん??」
突然の提案に飛燕は小首を傾げながら問いかける。
「ここからそんなに遠くないはずなんだけど……メインストリートから一本外れた辺りに、廃ビルがあるの知ってるか?」
「ああー、知ってる知ってる。確かずっと前から放置されてるビルっしょ?」
どうやら飛燕は例の廃ビルを知っていたらしく、納得したように頷いて見せる。
「でもどうして、ンなところに用があんの?」
「ああ、実はな――」
もっともな飛燕の問いに、俺は事情を説明した。
カズラに頼まれた経緯はややこしくなるので伏せたが、知り合いに頼まれて野良犬退治をしたいと告げる。
「へー、なるほどー。
そういやちょっと前に、保健所が野良犬狩りしてた、って聞いたな。
だから今度はそこに居着いちまったのかねぇ」
「と言うわけで、悪いが少し寄り道したいんだよ」
「オッケー、じゃあ日が暮れないうちに行っちゃおうぜ」
暫く歩いて行くと、メインストリートから脇道に外れて曲がっていく。
煌びやかなネオンなどからは遠ざかっていき、ビルの隙間から差し込んでくる夕日が照らす道を進む。
程なくすると視界の先には、灰色のコンクリート造の建物が見えてきた。
「うっ……何か不気味だな」
入り口の前までやって来ると、目の前にある廃ビルを見上げて、飛燕が引きつった表情で呟きを漏らした。
所々にヒビの入ったコンクリートの壁は剥き出しになっていて、長い年月野ざらしにされていたことが原因なのか劣化による変色も見受けられる。
「確かに少し、気味が悪いな」
ドアや窓は備え付けられていないようで、ぽっかりと開いた入り口は大口を開けて来訪者を飲み込もうとしているように見えなくもない。
「それじゃ、とっとと済ませるか」
バッグから忌避剤の箱を取り出すと、入り口付近にそれを散布する。
分量は箱に書いてある通りになるように気を使う。
「へー、それが野良犬除けの薬?」
「ああ、何か犬の嫌いな臭いらしいを放つらしいぞ」
入り口付近に忌避剤を巻き終えると、俺たちはビルの中へと足を踏み入れた。
足元には砕石が敷き詰められていて、床にはセメントの袋や建設資材が放置されている。
「うへぇ……中も殺風景だな……」
「何だが工事の途中みたいな感じだな」
窓から差し込んでくる夕日を頼りに更に進んで行く。
よく見てみると、壁からは電気のコードや、水道管。
それに排水用の太いパイプも剥き出しになっている。
床に放置されている建築資材と相まって、工事の名残を感じさせた。
「――よし、こんな感じでいいだろ」
俺たちは暫く適当に歩いて忌避剤を撒いて撮影、というサイクルを繰り返した。
これでビルの内部にもある程度は散布も終わっただろう。
飛燕も内部も不気味さにぼやきながらもそれに付き合ってくれた。
「よし! 用も済んだなら早く出ようぜ?」
一刻も早く廃ビルから出たいのか、飛燕は急かすように声を掛けてくる。
「そうだな。じゃあ、行くか」
俺は最後の撮影を終えると、デジカメをポケットにしまってその言葉に頷いた。
そして俺たちは、廃ビルを後にしたのだった。
「お、牽牛。来たな」
「悪い、待たせたか?」
夕方から夜に移り変わる時間帯。
賑わいを見せる雑踏の中から飛燕の姿を見つけると、小走りで駆け寄っていく。
待ち合わせ時間の五分前だったが、どうやらそれより前に到着していたらしい。
「いや、オレも今さっき来たとこだよ」
待たせてしまったことについて謝罪するが、飛燕は鷹揚に笑いながら答える。
普段はおちゃらけているが、こういう時間に余裕を持ってるところがコイツの良いところでもある。
「んじゃ、行こうぜ」
そう言うと飛燕は引率するように歩き出す。
俺はその後について行くと、カズラからの頼まれ事を思い出した。
「そうだ。ちょっと寄り道してもいいか?」
「寄り道? ああ、別に大丈夫だけど。
どこ行くん??」
突然の提案に飛燕は小首を傾げながら問いかける。
「ここからそんなに遠くないはずなんだけど……メインストリートから一本外れた辺りに、廃ビルがあるの知ってるか?」
「ああー、知ってる知ってる。確かずっと前から放置されてるビルっしょ?」
どうやら飛燕は例の廃ビルを知っていたらしく、納得したように頷いて見せる。
「でもどうして、ンなところに用があんの?」
「ああ、実はな――」
もっともな飛燕の問いに、俺は事情を説明した。
カズラに頼まれた経緯はややこしくなるので伏せたが、知り合いに頼まれて野良犬退治をしたいと告げる。
「へー、なるほどー。
そういやちょっと前に、保健所が野良犬狩りしてた、って聞いたな。
だから今度はそこに居着いちまったのかねぇ」
「と言うわけで、悪いが少し寄り道したいんだよ」
「オッケー、じゃあ日が暮れないうちに行っちゃおうぜ」
暫く歩いて行くと、メインストリートから脇道に外れて曲がっていく。
煌びやかなネオンなどからは遠ざかっていき、ビルの隙間から差し込んでくる夕日が照らす道を進む。
程なくすると視界の先には、灰色のコンクリート造の建物が見えてきた。
「うっ……何か不気味だな」
入り口の前までやって来ると、目の前にある廃ビルを見上げて、飛燕が引きつった表情で呟きを漏らした。
所々にヒビの入ったコンクリートの壁は剥き出しになっていて、長い年月野ざらしにされていたことが原因なのか劣化による変色も見受けられる。
「確かに少し、気味が悪いな」
ドアや窓は備え付けられていないようで、ぽっかりと開いた入り口は大口を開けて来訪者を飲み込もうとしているように見えなくもない。
「それじゃ、とっとと済ませるか」
バッグから忌避剤の箱を取り出すと、入り口付近にそれを散布する。
分量は箱に書いてある通りになるように気を使う。
「へー、それが野良犬除けの薬?」
「ああ、何か犬の嫌いな臭いらしいを放つらしいぞ」
入り口付近に忌避剤を巻き終えると、俺たちはビルの中へと足を踏み入れた。
足元には砕石が敷き詰められていて、床にはセメントの袋や建設資材が放置されている。
「うへぇ……中も殺風景だな……」
「何だが工事の途中みたいな感じだな」
窓から差し込んでくる夕日を頼りに更に進んで行く。
よく見てみると、壁からは電気のコードや、水道管。
それに排水用の太いパイプも剥き出しになっている。
床に放置されている建築資材と相まって、工事の名残を感じさせた。
「――よし、こんな感じでいいだろ」
俺たちは暫く適当に歩いて忌避剤を撒いて撮影、というサイクルを繰り返した。
これでビルの内部にもある程度は散布も終わっただろう。
飛燕も内部も不気味さにぼやきながらもそれに付き合ってくれた。
「よし! 用も済んだなら早く出ようぜ?」
一刻も早く廃ビルから出たいのか、飛燕は急かすように声を掛けてくる。
「そうだな。じゃあ、行くか」
俺は最後の撮影を終えると、デジカメをポケットにしまってその言葉に頷いた。
そして俺たちは、廃ビルを後にしたのだった。